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法律ひとくちメモ

消費者被害とその対処法(2)~消費者契約法第4条の取消権

第1 クーリングオフが不可能な場合の対処法

  1. 消費者契約法4条の取消権
     前回取り上げたクーリングオフが使えない場合、消費者として業者に対抗できる手段としては消費者契約法第4条の取消権があります。
     原則的には、契約を取り消すためには、契約を取り消すことができる理由が必要であり、その理由として、民法上の詐欺(民法96条)や強迫(民法96条)に該当する必要があります。
     しかし、実際は民法上の詐欺や強迫に該当することを立証することは困難な場合が多く、その結果、立証に失敗して契約を取り消すことができないことになってしまいます。
     そこで、消費者を保護するという観点から、消費者契約法は、民法上の詐欺や強迫に該当しない場合にも、契約を取消すことができる場合を規定しているのです。
     これが消費者契約法第4条で規定されている取消権なのです。

  2. 消費者契約法4条の取消権の類型
    1. 誤認による意思表示の取消
       民法上の詐欺には該当しないが、事業者が契約締結を勧誘するに際して、消費者に対して不適切な情報を提供したことによって消費者が当該情報について誤認し、その誤認によって契約を締結した場合に契約を取り消すことができます(消費者契約法4条1項・2項)。
    2. 困惑による意思表示の取消
       民法上の強迫には該当しないが、事業者が契約締結を勧誘するに際して、不適切な交渉態様と考えられる困惑行為によって契約を締結させられた場合に、契約を取り消すことができます(消費者契約法4条3項)。

第2 概要
  1. 誤認による意思表示の取消について
     誤認による意思表示の取消ができる場合として、消費者契約法は以下の場合を規定しています。
    1. 不実告知(消費者契約法4条1項1号)
      重要事項について事実と異なることを告げることによって、消費者がその重要事項を誤認した結果、契約を締結してしまった場合には、当該契約を取り消すことができます。
      この場合、事業者が故意に重要事項について事実と異なることを告げた場合でなくても契約を取り消すことができます。また、事業者が過失なく重要事項について事実と異なることを告げた場合であっても契約を取り消すことができます。
      この点が、故意に事実と異なることを告げることを要求されている民法の詐欺とは大きく違います。
       なお、消費者契約法4条4項でどのような事項が重要事項に該当するのかについても明確に定まっています。
    2. 断定的な情報提供(消費者契約法4条1項2号)
      契約の目的となるものに関し、将来における不確実な事項について断定的判断の提供をした場合にも、当該契約を取り消すことができます。
      この類型に該当する契約としては、保険・証券・先物・エステ・健康食品等を目的とする契約があります。
      そして、断定的判断の対象は、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の対象となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項です。
      なお、この対象に財産上の利得以外のもの(例:この美容液を使えば必ず綺麗になります・この参考書を使えば必ず成績があがります)も含まれるかについては、裁判例もわかれています。
    3. 不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項)
      事業者が消費者に対し、重要事項やそれに関連する事項につき、一方で有利なことを告げ、他方で当該重要事項について不利益な事実を故意に告げなかった結果、消費者が誤認した場合にも、契約を取り消すことができます。
      例としては、マンションの眺望の良さをうたい文句にしながら、業者が隣接土地に眺望を遮る建物の建設計画を知りつつ、これを購入者に告げなかった場合があげられます。
      なお、事業者が不利益な事実について説明しようとするのを消費者が妨げた場合には、契約を取り消すことはできません(消費者契約法4条2項但書)。
          
  2. 困惑による意思表示の取消について
     困惑による意思表示の取消ができる場合として、消費者契約法は以下の場合を規定しています。
    1. 不退去(消費者契約法4条3項1号)
      消費者が事業者に対し、住居、業務を行っている場所から退去せよという意思表示をしたにもかかわらず、退去しなかったことにより、消費者が困惑し、その結果、契約を締結してしまった場合、契約を取り消すことができます。
      なお、退去すべき旨の意思表示は、「帰ってくれ」、「お引き取り下さい」等の明示のものでなくてもよく、明確にこれらの意思表示をしていない場合であっても、消費者の発言・態度等からこれらの意思が明らかになっていれば足ります。
       
    2. 退去妨害(消費者契約法4条3項2号)
      消費者が事業者から勧誘を受けている場所から退去するという意思表示をしたにもかかわらず、事業者が妨害したことにより、消費者が困惑し、その結果、契約を締結してしまった場合にも契約を取り消すことができます。
      なお、退去するという意思表示も上記(1)の不退去の場合と同様で、消費者の発言・態度等からこれらの意思が明らかになっていれば足ります。

  3. 因果関係
     事業者が、以上において述べてきた不実告知、断定的判断の提供、不利益事実の不告知を行った結果と消費者が誤認して契約を締結してしまったという関係(因果関係)が必要です。
     また、事業者が退去しなかったり(不退去)、消費者が退去しようとするのを妨害(退去妨害)したことにより、消費者が困惑し、その結果、契約を締結してしまったという関係が必要です。

  4. 取消の効果
    1.  取消権を行使すると業者には代金全額を返還する義務が生じ、業者は消費者に対して、損害賠償や違約金を請求することもできなくなります。
       他方で、消費者も、事業者に対して、受け取ったものは現物で返還しなければなりません。
       なお、消費者がすでにサービスの提供を受けていたり、受け取ったものを消費してしまっていた場合、消費者は、サービス及び消費したものの価値を金銭的に評価して返還しなければならないことになりません。
       これが原則的な取り扱いとなりますが、消費者契約法4条1項から3項規定の事業者の行為によって契約を締結させられ、その結果、サービスを受けたり、ものを消費してしまった場合には、消費者は事業者からサービスやものを押しつけられたものであると評価でき、金銭の返還を免れることを主張できる場合もありえます。
       但し、この点については、裁判例も少なく、その結果もまちまちでありありますので、事案によっては、金銭等を返還しなければならないこともあります。
       
    2.  また、取消の効果は、善意の第3者には対抗できません(消費者契約法4条5項)。

  5. 行使期間(消費者契約法第7条1項)
     消費者契約法4条の取消権もクーリングオフと同様、いつまでも行使できるわけではなく、一定の期間内に行使しなければなりません。
    1.  誤認による取消の場合は、「事業者の勧誘行為が不実告知・断定的判断の提供・不利益事実の不告知に該当することを知ったとき」から6か月以内に行使しなければなりません。
       困惑による取消の場合は、「不退去、退去妨害から脱したとき」から6か月以内に行使しなければなりません。
       なお、ここでいう「脱したとき」とは、物理的な意味でだけでなく、心理的な意味でも上記状態を脱したことが必要です。
       
    2. また、契約締結時から5年を経過したときにも取消権の行使はできなくなります。

  6. 媒介の委託を受けた第三者による勧誘(消費者契約法5条)
     消費者契約法5条は、事業者が契約締結の媒介を第三者に委託した場合、その第三者が誤認・困惑行為を行った場合にも適用されます(消費者契約法5条)。
     具体的に説明すると、例えば、立替払いやリース契約について、実際に勧誘を行っている販売店、不動産の仲介をする宅建業者が誤認・困惑行為を行った場合にも、取消権の行使が可能であるということになります。
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