- 運転手は、以下のような義務を負います。
① 負傷者の救護
② 危険防止の措置
③ 警察への届出
法律Q&A 一覧
交通事故
交通事故Q&A
最終更新日:2016年07月26日- 交通事故が起きたら、運転手はすぐに保険会社へ事故を届け出てください。事故が起きてから60日以内に届け出ないと、任意保険が使えない場合があります。
- 運転手は、自動車運転免許に関して、減点、免許停止、免許取消等の行政処分を受ける可能性があります。
- 運転手は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律に基づき、罰金、禁固、懲役等の刑事罰を受ける可能性があります。
- 解決の方法としては、主に、示談、日弁連交通事故相談センターによる示談あっせん、交通事故紛争処理センターによる仲裁、調停、訴訟の5つが考えられます。以下、この5つの方法の内容を説明します。
① 示談
示談とは、調停や訴訟とは異なり、裁判所を利用せずに、事故の当事者の話し合いで解決する方法です。保険会社が示談の相手方になることもあります。
示談の長所としては、調停や訴訟より迅速な解決が図れる点が挙げられます。
一方短所としては、弁護士に委任しない場合、保険会社の担当者が専門家なので、低額示談してしまうことが多いこと、当事者同士の話し合いの場合、感情的になりやすいこと、当事者の間で意見が一致しなければ解決できないこと、示談が成立してもそれが守られないことがあるということなどです。
② 日弁連交通事故相談センターによる示談あっせん
日弁連交通事故相談センターによる示談あっせんとは、損害賠償の交渉で相手方と話し合いがつかない時に、当該センターの弁護士が間に入り、公平・中立な立場で示談のあっせんをしてもらう方法です。
長所としては、無償で、公平・中立な立場の弁護士から、意見を聞くことが出来る点です。また、短期間での紛争の解決が期待できる点も、長所といえます。
一方短所としては、加害者側の保険が、日弁連が定める特定の共済でない場合には、当該センターによるあっせんが決裂した時は、当該センターが提示した示談の内容に拘束力が認められないため、訴訟等の法的措置を執らざるを得なくなる点です。また、物損のみの損害の場合には、当該センターによる示談あっせん制度が使えない時がある点にも注意が必要です。
③ 交通事故紛争処理センターによる仲裁
交通事故紛争処理センターによる仲裁とは、弁護士が、被害者と加害者の保険会社等との間に立って、法律相談、和解あっせん及び審査手続を行う方法です。
長所としては、無償で手続を利用出来ること、共済のみならず、損害保険会社にとっても拘束力が認められる、審査手続が認められていることです。
一方短所としては、紛争解決までに時間がかかること、当該センターによる仲裁を利用することが出来ない類型の交通事故が複数存在すること、当該センターの数が少なく、全国どこでも利用出来る状況にないことが挙げられます。
④ 調停
裁判所で調停委員が事故の当事者の間をとりもって問題の解決を図る方法です。調停委員は公平な第三者として事故の当事者の言い分を聞いたり、意見の調整をします。
ただし、当事者がお互いに譲歩して合意しなければ調停が成立せず、合意ができないために問題の解決ができないこともあります。
⑤ 訴訟
裁判所で裁判官が判断をして解決する方法です。訴訟の間でも当事者が合意すれば和解は可能です。
長所は、当事者間に合意が成立しなくても、裁判官の判決による終局的な解決ができることや、過失割合に争いがある場合の解決に向くことです。
短所は、時間がかかることや、訴訟手続は複雑で専門性が高いので個人で訴訟をするのが大変なことです。
- 交通事故による損害賠償請求権の根拠は、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求権及び、自賠法に基づく損害賠償請求権です(民法709条、自賠法3条)。
- 何を請求することが出来るのかは、人損事故(被害者が怪我を負ったり、死亡した事故)の場合と、物損事故(自動車その他の物が壊れた事故)の場合とで異なります。なお、人損と物損の両方が発生する交通事故も存在します(車が壊れ、かつ運転手が怪我を負った場合等)。
ア 人損事故の場合、以下のような請求をすることができます。
-
被害者が死亡した場合… 葬儀費用、逸失利益(死亡しなければ将来得られたであろう利益)、慰謝料(被害者本人の慰謝料以外に、親族固有の慰謝料も請求できることがある)など
被害者が傷害を負った場合… 治療費、休業損害、慰謝料など
被害者が後遺障害を負った場合… 逸失利益、慰謝料など
イ 物損事故の場合は、事故によって壊れた物の修理費、買い換え費用、代車費用などの損害を請求することができます。
- 人損事故の場合には自動車の運転者や、加害車両の所有者です。加害者が、仕事で車を使用中に事故を起こした場合には、加害者の使用者(加害者が勤務する会社等、事業のために加害者を使用する者)にも請求できます。
物損事故の場合には、自動車の運転者と、運転者の使用者に請求できます。
- 交通事故による人身損害の慰謝料の算定基準には、自賠責保険の支払基準(以下「自賠責基準」といいます)と裁判基準等があります。裁判基準は日弁連交通事故相談センターの基準を参照するのが一般的です。
自賠責基準は、自賠責保険が強制加入の保険である性質上、死亡・後遺障害・傷害という項目毎に上限が定められており、非常に低く損害金額を見積もります。裁判基準と自賠責基準を比較してみると、数倍の差がつくこともあります。
なお、交通事故相談センターの慰謝料の基準について詳しく知りたい方は、公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発行の民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(上)(通称赤い本)や、財団法人日弁連交通事故相談センター発行の交通事故損害額算定基準-実務運用と解説-(通称青い本)をご覧下さい。
参考
傷害についての慰謝料は、通常の傷害と、むち打ちで他の他覚症状がない場合に大別され、それぞれ入院日数や通院日数に応じて算定されます。
- 交通事故の損害賠償では、損害全額を請求できるとは限りません。被害者側にも過失があった場合、過失の割合によって減額されることがあり、これを過失相殺と言います。
- 人損については、自賠責保険の適用がありますが、物損については自賠責保険の適用はありません。また、人損についても自賠責保険には上限がありますので、全ての損害を補填してもらえるわけではありません。任意保険であれば、契約内容に応じ物損や自賠責保険の上限を超える損害についても補填してもらえます。
- 訴訟外で保険会社と交渉すると、保険会社は自賠責基準を用いて算定した支払額を提示してくることが多いです。一旦示談をしてしまうと、後でそれ以上の請求ができなくなってしまいますので、注意してください。ぜひ示談の前に弁護士に相談してみてください。
- 弁護士保険や弁護士特約とは、弁護士に相談・依頼することによって生じる弁護士費用を、相談者・依頼者に代わって、自己が加入する任意保険会社が支払うことを内容とする保険です。この保険により、少額な事件であっても、弁護士費用を気にすることなく、弁護士に相談・依頼をすることができます。 また、保険契約者だけでなく、その家族等も弁護士保険や弁護士特約を使うことができる場合があるので、保険の内容を調べてみてください。 弁護士保険や弁護士特約の詳細については、こちらをご覧下さい。
- 弁護士に依頼をすると、保険会社との間で、裁判基準を考慮して、示談を進めることができます。
また、弁護士であれば、過失割合や、後遺障害の認定など、専門的な知識を必要とする問題について、対処することができます。
さらに、本人では行うことが難しい訴訟も、弁護士であれば、適切な処理を行うことができます。
なお、弁護士に依頼をしたからといって、必ず訴訟まで行うわけではありません。依頼者が希望すれば、示談交渉のみで終了することもできます。
離婚
離婚について
最終更新日:2016年05月25日あなたが離婚を決意した場合、その後の展開は相手方(「配偶者・はいぐうしゃ」)が離婚に応じる場合と応じない場合 とで、大きく違ってきます。また、配偶者が離婚自体には応じていても、子供の親権・養育費や慰謝料・財産分与などの「離婚の条件」で折り合いがつくか否か で、やはりその後の展開が違ってきます。状況に応じた的確な判断と進め方が必要になります。
- 離婚の種類としては、
①協議離婚
②調停離婚
③審判離婚
④裁判離婚(和解離婚・認諾離婚・判決離婚)
の4つがあります。
あなたと配偶者とで、①離婚すること ②離婚届を提出すること の合意が成立すれば、離婚届に署名・押印した上で 市町村役場に届出するだけ で離婚をすることが出来ます。
しかし、両者間に未成年の子供がいる場合には、③未成年の子の親権者をどちらにするか を決めなければ、離婚届が受理されません。
また、養育費や慰謝料・財産分与などのその他の「離婚の条件」に争いがある場合も、多くの場合は上記②の「離婚届を提出すること」の合意が出来ませんので、協議離婚は成立しません。
「離婚の条件」について合意が成立した場合も、口約束だけでは後々のトラブルが心配です。後々のトラブルを出来るだけ少なくするために、離婚に当たって 取り決めた「離婚の条件」を紙に書いて二人が署名する離婚協議書を作成しておいた方がいいでしょう。もし、書き方などが分からない場合には、弁護士に離婚協議書の作成を依頼することも出来ます。
- 配偶者が離婚に応じない場合や「離婚の条件」に争いがある場合には、家庭裁判所に離婚調停を申し立てることが出来ます。ちなみに、日本では、配偶者が離婚に応じない場合や「離婚の条件」に争いがある場合にも、すぐに離婚裁判を起こすことはできません。まず、離婚調停をする必要 があります(調停前置主義)」。
申立は、家庭裁判所の所定の用紙に記入して行うことができます。 夫婦の戸籍謄本などが必要です。書き方は家庭裁判所の受付係の人がある程度教えてくれます。書く内容はある程度大雑把でいいでしょう。
別居している場合は、相手方配偶者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要がありますので注意してください。分からないときは、家庭裁判所の係の人に聞けば、教えてくれます。
調停を申し立てると、その後 第1回の調停期日が決められます。相手方にも家庭裁判所から申立書の写とともに日時を記載した呼出状 が送られます。
- 調停期日では、申立人と相手方は、それぞれ別個の控え室で待機しています。第1回期日では、まず申立人が調停室 に呼ばれて事情を話します。但し、その前に当事者同席の上で手続の説明が行われることがあります。調停室には、調停委員(調停委員は3名ですが、調停主任である裁判官は普段はいないことが多く、通常他の男女1名ずつの調停委員が対応しているのが一般です)がいて、申立人と相手方を交互に調停室に呼んで、双方の話を聞きながら、離婚意思の確認や「離婚の条件」について意見の調整を図っていきます(同席調停といって、申立人と相手方を同席させて協議する場合もありますが、例外的です)。
相手方が暴力的な場合や、相手方と絶対に顔を合わせたくない場合などは、申立の時や調停の始まる前に、裁判所の係の人に申し出ておくと良いでしょう。
離婚調停は、1回で終わることは余りなく、合意が成立する可能性がある間は、何回か開かれます。通常、期日は、1ヶ月に1回程度開かれます。
調停で離婚意思と「離婚の条件」について合意ができれば、調停が成立します。 調停委員会(この時には、調停主任たる裁判官も出席します)が合意された調停条項を読み上げることにより調停が成立し、調停離婚となります。そして、(後日)読み上げられた調停条項が記載された調停調書が作成され送られて来ます。
この調停調書の謄本を市町村役場に提出することで離婚の成立が戸籍に反映されます。調停離婚の場合は、調停の成立時に離婚が法的に成立しています。届出の時ではありませんので、この点が協議離婚と違うところです。
調停を進めて行っても、 両者の合意が成立しそうもない場合は調停は不成立 となり、調停は終了します。
- 調停の申立やその後の手続は、弁護士が付かなくても十分にできます 。しかし、調停での主張の仕方が分からなかったり、法律知識がないためにもっと主張できる場合にもしなかったなどという場合があります。また、調停委員が十分に話を聞いてくれないといった不満も時々聞かれ、そのような場合に弁護士として調停での代理人となって調停に出席すると、「調停委員の対応が前回と全く違った」などと依頼者に言われる事もあります(調停委員は、双方の譲歩を引き出すために、双方に厳しいことを言う場合があり、それが結果的に不満に感じる原因だと思うのですが、中には法律的素養に疑問を感じる調停委員がいないでもありません)。調停の状況に応じて弁護士を付けるかどうか判断すればいいと思うのですが、それなら最初から付いてくれという場合もあります。
- 調停となった場合で調停での話し合いでは「離婚の条件」についてほぼ合意しているのに、ある点だけが合意できない場合などで、家庭裁判所の判断が示されれば両者が受け入れる可能性が高い場合、 家庭裁判所の職権で離婚の審判 がなされることが有ります。しかし、このような場合は実際にはめったにありません。
何故なら、両者が受け入れる可能性が高い場合は離婚調停の中で解決できる場合が多く、そうでない場合は審判を行っても 異議申立 をされることが予想されます。そして、異議申し立てがあると審判の効力はなくなってしまうからです。
調停が不成立となった場合 、離婚するためには家庭裁判所に離婚訴訟を提起しなければなりません。離婚訴訟において、離婚判決が出されてそれが確定すれば、裁判離婚が成立します。 離婚の条件も判決によって決められることになります。裁判離婚の場合、裁判の確定日が離婚成立の日となります。後日、判決謄本と判決確定証明書を市町村役場に提出することで離婚の成立が戸籍に反映されます。
但し、裁判で離婚が認められるためには、法律で定められている離婚原因が必要です。
現在民法で定められている離婚原因は、次の5つです。
1.不貞行為があったとき
2.悪意で遺棄されたとき
3.3年以上生死が不明のとき
4.強度の精神病で回復の見込みがないとき
5.その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
上記5は、1から4に当たらない結婚生活の破綻を要件としますが、結婚生活が破綻している場合でも有責配偶者(結婚生活の破綻の重大な原因を作ったことにつき専ら責任を有する配偶者=例えば浮気をして結婚生活を破綻させた者)からの離婚請求は原則として認められません。
裁判離婚のうち、離婚判決によって離婚が成立する場合を判決離婚、離婚訴訟の中で話し合いが成立して和解により離婚する場合を和解離婚、離婚訴訟を起こされた相手方配偶者が離婚を起こした側の言い分を全面的に受け入れて成立する離婚を認諾離婚といいます。
- 離婚訴訟も弁護士に依頼せず、自分で行うことが可能です。
しかし、弁護士に依頼せず、自分で、離婚原因があることを説得的に主張する書面を作成したり、離婚原因があることを示す証拠を効果的に提出したり、法廷で法律知識を駆使して裁判官や相手方代理人弁護士に相対したりすることは、非常に大変です。ですから、離婚訴訟を提起をする場合には、弁護士に依頼する方がメリットが多いと思います。
当法律事務所の弁護士は、数多くの経験と実績を有していますので、お気軽にご相談ください。
認知について
最終更新日:2016年05月25日- 婚姻関係にある男女から生まれた子(婚姻中に懐胎した子)を「嫡出子」といいますが、「認知」とは、嫡出でない子(非嫡出子)について、その父又は母が血縁上の親子関係を定められた方法で認めることをいいます。
- 子の出生の日から(※認知の日からではない)親子関係を認める効果があります。具体的には、認知した父親に対して養育費が請求できたり、どちらかが死亡した場合に相続関係が発生する可能性が生まれます。
- 「認知届」を父親または子の本籍地または父親の住所地の役所に提出します。その際、戸籍等の必要な書類がありますので、役所にご確認ください。母親の承諾は不要です。
また、遺言によって認知するということも可能です。遺言の作り方については、弁護士等の専門家にご相談ください。
- 子どもが胎児のときに認知することも可能です。この場合は、母親の本籍地の役所に届け出が必要になるとともに、子どもの母親の承諾が必要となります。
- 子またはその直系卑属(孫、ひ孫等の子孫)は、家庭裁判所に認知を求める調停を起こし、それでも合意が成立しない場合は、裁判を起こすことができます。ただし、父親の死から3年が経過するとできません。
具体的な手続きの方法等については、弁護士にご相談ください。
- 一度した認知は原則として取り消すことはできません。もっとも、認知が詐欺・脅迫による時は、取り消すことができるとする裁判例もありますので、まずはご相談ください。
- 離婚後300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと法律上推定されるので、認知しなくても元夫との嫡出子となります。元夫が子どもとの親子関係を争う場合は、子どもの出生を知ってから1年以内に家庭裁判所に「嫡出否認の訴え(調停)」を起こす必要があります。母親または子どもから元夫との父子関係を否定したい場合は、親子関係不存在の確認を求める調停を起こすことが必要です。
なお、平成19年5月21日から、医師による「懐胎時期に関する証明書」によって、婚姻の解消又は取消し後に懐胎したと推定される場合は、元夫の嫡出推定が及ばないものとして、非嫡出子又は再婚する夫を父とする嫡出子としての出生届が可能となりました。
- 婚姻から200日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したこと(嫡出)が法律上推定されません。ただし、嫡出子として出生届が出されれば、戸籍上は嫡出子として受理されます。この場合において親子関係を争う者は、親子関係不存在確認の訴え(調停)を起こすことができます。
- 夫の海外出張中、服役中など、明らかに懐胎が不可能な場合は、法律上の嫡出推定は及ばないとされています。この場合は、嫡出否認の訴えではなく、親子関係不存在の確認の訴えによって親子関係が否定できます。
- 認知によっても子どもの名字は変わりません。親権者も母親のままです。ただし、協議等によって親権者を父親に変更することが可能となります。
- 児童扶養手当は、認知の有無に関係なく受給できます。ただし、認知され養育費が支払われている場合は、その養育費の8割が所得とみなされて、児童扶養手当の受給の有無に影響を及ぼすことがあります。
相続・遺言・成年後見
遺産分割について
最終更新日:2016年05月25日遺産分割には、①遺産分割協議、②遺産分割調停、③遺産分割審判といった手続があります。
各手続の概要については、『遺産分割協議とは、どのような手続ですか。』をご覧ください。
- 遺産分割を行う前に、少なくとも、①相続人の範囲(誰が相続人となるのか。)、②相続財産の範囲(相続の対象となる財産としては何があるのか。)、③遺言書の有無といった点については調べておく必要があります。仮に、一部の相続人が参加せずに遺産分割を行うと、遺産分割が無効となり、再度、遺産分割手続をやり直さなければならない場合があります。
相続人の範囲については、民法に定めがあります。
被相続人(亡くなられた方)の配偶者(夫又は妻)は常に相続人となります。また、被相続人の子がいれば子が相続人となります。子が既に亡くなっている場合など、代襲相続が発生する場合は、代襲相続人が相続人となります。
※ 代襲相続について
子や代襲相続人がいない場合には直系尊属が相続人となります。直系尊属とは、被相続人の父母、祖父母、曽祖父母などのことをいいます。直系尊属が複数存在する場合は、その親等が近い者が相続人となります。
子、代襲相続人、直系尊属がいなければ兄弟姉妹が相続人となります。
それぞれの場合の相続分は、次のとおりとなります。
① 配偶者:子 =1:1
② 配偶者:直系尊属=2:1
③ 配偶者:兄弟姉妹=3:1
- 例えば、被相続人の子が、相続の開始前に亡くなっているとき、または相続人の欠格事由に該当したとき(相続人の欠格事由について)、もしくは廃除によって相続権を失ったときに(廃除について)、その者の直系卑属(子、孫、曾孫など)が代わりに相続することをいいます。
ただし、相続放棄をした者の直系卑属は、代襲相続できません。
民法には、相続人の欠格事由(相続権を当然に喪失する事由)として以下の4つの場合を定めています。
- 故意に被相続人または先順位もしくは同順位の相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたため刑に処せられた。
- 被相続人が殺されたことを知って、これを告発、告訴しなかった(判断力の無い者、殺害者が自分の配偶者や直系血族の場合は除く。)。
- 詐欺や強迫によって、被相続人に遺言書の作成や変更をさせ、もしくは遺言書の作成や変更を妨害した。
- 遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した。
- 故意に被相続人または先順位もしくは同順位の相続人を死亡するに至らせ、または至らせようとしたため刑に処せられた。
- 被相続人の意思に基づいて、相続人の相続権を喪失させる制度です。
相続人が被相続人に対して虐待をし、もしくは重大な侮辱を加えたときや、相続人に著しい非行があったとき、被相続人は、相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができます。また、遺言によっても廃除の意思表示をすることができます。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等(戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍)を市区町村役場から取得するなどして調査する必要があります。
相続人であれば、被相続人の戸籍謄本等を取得することができますが、相続関係が複雑な場合などには、弁護士などの専門家に調査を依頼することをお勧めします。
- 遺産分割は相続人全員で行う必要がありますので、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てることになります。不在者財産管理人が選任されますと、不在者財産管理人が行方不明者の代理人として遺産分割の手続に参加します。
また、相続人が7年間生死不明の場合や相続人が危難(船舶の沈没や津波など)に遭遇し、その後1年間生死不明の場合には、失踪宣告の申し立てを行い、その方が死亡したものとみなしたうえで、失踪者の相続人が遺産分割の手続に参加することもできます。
- 土地、建物、預貯金、現金、株式、家財道具等のプラスの財産だけではなく、債務(借金)といったマイナスの財産も相続財産の対象になります。
保険金については、受取人が被相続人となっている場合には、相続財産の対象になりますが、受取人が被相続人以外の者となっている場合には、原則として相続財産の対象にはなりません。
- 不動産については、被相続人宛ての固定資産税通知書を確認したり、名寄帳(なよせちょう)を市区町村から取り寄せたりすることで調査することができます。
名寄帳とは、固定資産課税台帳に基づいて、土地又は家屋に関する登録事項を所有者ごとにまとめて記載した帳簿のことです。
例えば、静岡市であれば葵区役所、駿河区役所、清水区役所から取り寄せることが可能です。
- 預貯金については、相続人であれば各金融機関に照会することができます。
また、預貯金口座の取引履歴から別の預貯金や株式などの相続財産の存在が判明することもあります。そのような場合、弁護士であれば、弁護士会照会という手続を用いて、金融機関や証券会社等に対し、新たに判明した相続財産について照会することができます。
- 現金、貴金属については、自宅以外に、生前取引のあった銀行に貸金庫がないか確認することが考えられます。
- 株式、投資信託などの有価証券については、被相続人宛ての配当通知などから判明することがあります。また、被相続人名義の口座の取引履歴を確認することが考えられます。
- 被相続人の債務については、信用情報機関への信用情報の開示請求などの方法によって調べることができます。
- 遺産分割協議とは、相続人間での話し合いによって遺産の分割方法を決める手続です。
遺産分割協議では、相続人全員の合意があれば、法定相続分や遺言と異なる内容で遺産の分割方法を決めることができます。
ただし、被相続人の債務(借金)は、法律上、相続開始によって法定相続分に応じて当然に分割されますので、遺産分割の対象にはならないと考えられています。
したがって、遺産分割協議において、当事者間で特定の相続人が債務を相続する旨の合意が成立したとしても、あくまで相続人間の内部関係を決めたに過ぎず、その内容を債権者に主張できるわけではありません。
- 遺産分割協議は口頭によるものでも有効ですが、後々の紛争を防ぐためにも遺産分割協議書を作成して、相続人間で合意した内容を書面に残すことをお勧めします。
なお、遺産分割協議書には全員の署名捺印が必要となりますが、不動産の名義変更に遺産分割協議書を使用する場合には、実印で捺印する必要があり、また、印鑑登録証明書が必要となります。
- 裁判所が選任した調停委員を間に入れて、相続人間での話し合いによって遺産の分割方法を決める手続です。遺産分割調停においても相続人全員の合意があれば、法定相続分や遺言と異なる内容で遺産の分割方法を決めることができます。
ただし、遺産分割協議の場合と同様、特定の相続人が債務を相続する旨の調停が成立したとしても、あくまで相続人間の内部関係を決めたに過ぎず、その内容を債権者に主張できるわけではありません。
- 遺産分割協議で相続人間での話し合いがまとまらなかった場合や遺産分割協議に応じない相続人がいるなど遺産分割協議をすることができない場合に申し立てることができます。
遺産分割は複雑な問題を多く含んでいることがありますので、遺産分割調停等については、弁護士に依頼することをお勧めします。
- 調停の相手方となる方の住所地を管轄する家庭裁判所又は、当事者が合意で定める家庭裁判所に申し立てることができます。
例えば、相手方の住所地が静岡市であれば静岡家庭裁判所に、相手方の住所地が島田市、焼津市、藤枝市等であれば静岡家庭裁判所島田出張所に申立てることができます。
- 祭祀とは、系譜(家系図など)、祭具(位牌、仏壇など)、墳墓(墓石、墓牌など)のことをいいます。
祭祀承継の問題は、遺産分割とは別の事件ですので、祭祀承継者を指定するためには、本来、遺産分割調停とは別途、審判の申立てが必要となります。ただし、当事者全員に争いがない場合には、遺産分割手続の中で、祭祀承継者を指定して祭祀財産を取得させることができます。
- 相続人間で合意した内容が記載された調停調書という書面が作成されて、遺産分割の手続は終了します。
- 遺産分割調停での話し合いがまとまらず、話し合いが打ち切られた場合には、遺産分割審判に移行します。
- 裁判所が、当事者の主張や証拠を勘案して、遺産の分割方法を定めるという手続です。
- 遺産分割審判の内容に不満があれば不服を申し立てることができます。
具体的には、審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に即時抗告という手続をすることができます。即時抗告がなされた場合、高等裁判所において、遺産の分割方法について再度審理がなされます。
遺言について
最終更新日:2022年05月13日- 遺言(ゆいごん・いごん)とは、一定の方式にしたがって、自分が死んだ後の法律関係を定める意思表示のことです。
遺言は、遺言者(遺言をする人のこと)の死亡によってその効果が発生します。
- 遺言者が遺言により決めることのできる法律関係は、民法上限定されています。
遺言で決めることができる法律関係には、たとえば次のようなものがあります。
1.自分の財産を、誰に、どのように相続させるかといった財産上の事項
2.自分が生きている間に認知していなかった子を認知するといった身分上の事項
※ 認知とは
- 遺言全体が無効になるわけではありませんが、民法で認められている事項以外の事項については、道徳的な意味を持つに過ぎないと考えられています。
- ある人が亡くなった場合、遺言がなければ、その人の財産(遺産)は、法律の定めに従って、相続人に相続されることになります。
相続人が複数いる場合には、相続人間で遺産をどのように分割するかを協議することになります。この協議のことを「遺産分割協議」といいます。
この協議がスムーズに成立すれば問題ありません。
しかし・・・
相続人同士で、誰がどのように遺産を相続するかについて、もめ事が起きることもしばしばあります。今まで仲の良かった兄妹が遺産を巡って、仲違いしてしまうことも珍しくありません。
もし遺言があれば!!
どの財産をどの相続人に相続させるかを明確に指定しておけば、遺言にしたがって相続が行われるため、相続人間の争いを未然に防ぐことができます。
もし遺言が無ければ、長男と次男が半分ずつ、Aさんの遺産を相続することになります。そのAさんが長男にすべての財産を相続させたいと思うのであれば、長男に全てを相続させるという内容の遺言を作成する必要があります。
※ ただし、遺留分(いりゅうぶん)の問題は残ります。→遺留分について
1.相続人がおらず、お世話になった人に自分の財産を贈与したい場合
2.相続人はいるが、相続人以外の人に財産を贈与したい場合
これらの場合も遺言を作成することでそれを実現することができます。
※ ただし、相続人がいる場合には遺留分の問題は残ります。→遺留分について
- 遺言は、満15歳以上であれば行うことができます。
ただし、遺言にあたっては、遺言能力(遺言の内容を理解できる能力)が必要とされています。
遺言能力がない状態でなされた遺言は無効となってしまいます。
たとえば、重度の認知症になってしまい、自分の所有物が自分のものであることを理解できないような状態は、遺言能力が欠ける場合にあたると言えます。
- 遺言には、大きく分けて自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
1.自筆証書遺言について
自筆証書遺言とは、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに遺言者の印を押すことにより作成するものです。これらは、法律上必要とされている事項です(形式的要件)。
自筆証書遺言は、遺言者の自筆であることが必要とされています。
したがって、パソコンやワープロで作成されたものや代筆されたものは、それが一部であっても無効となってしまいます。ただし、自筆証書遺言に一体のものとして添付する相続財産の目録については、目録の各ページ(両面記載の場合にはその両面)に遺言者の署名・捺印があれば、自筆でなくても無効とはなりません。
2.公正証書遺言について
公正証書遺言とは、公証人という専門家が関与することにより作成される遺言です。
公正証書遺言についても、法律上、いくつかの形式的要件が規定されています。もっとも、公正証書遺言については、公証人が関与して作成されるため、形式的要件が問題になることはありません。
- 自筆証書遺言のメリットとしては、費用を掛けず簡易に作成することができることやその存在を生前秘密にすることができること等が挙げられます。
他方で、デメリットとしては、書いたものを紛失してしまったり、遺言者以外の人によって偽造・変造されてしまったりするおそれがあることが挙げられます。
また、専門家のアドバイスを受けないで作成した場合、法律上の形式的要件を充たさずに無効になってしまったり、内容が曖昧であったり、不完全であったりしたために、その効力が問題となることなどが挙げられます。
また、本人の筆跡であるかどうか、遺言能力があったかどうか、などの争いが生じたりすることもあります。
さらに遺言者が死亡した後に、家庭裁判所に遺言書を提出して検認の手続きを取る必要があります。
せっかくご自分の意思を残したいと思って自筆証書遺言を作成するのですから、その作成にあたっては、法律上の形式的要件を充たしているか、内容に問題は無いかなどについて、弁護士などの専門家にアドバイスを仰ぐなど、慎重に検討する必要があります。
なお、上記自筆証書遺言のデメリットをカバーする「自筆証書遺言保管制度」が2020年(令和3年)7月から始まりました。同制度については、「Q 自筆証書遺言保管制度とはどのようなものですか?」をご覧ください。
- 公正証書遺言のメリットとしては、公証人が関与するため、法律上の形式的要件に不備があることによって無効になる心配がないことが挙げられます。
また、公証人が遺言の内容を整理し、表現を補って作成してくれるので、内容を巡る争いが少なくなることも公正証書遺言のメリットです。
さらに、原本を公証人役場で保管してくれるため、紛失や偽造・変造の心配もありません。
ほかにも、自分で署名ができない場合でも作成できることなどが挙げられます。
他方、デメリットとしては、費用が掛かってしまうことが挙げられます。
- 疑問に感じたことや分からないことがあれば、何でもご相談ください。
たとえば、遺言を作成したいが、どうしたらいいか分からないといった場合には、弁護士が遺言者の方のお話を伺った上で、どのような形式・内容で遺言を作成したらよいかアドバイスいたします。
また、作成した自筆証書遺言について、遺言の効力に問題が生じないよう、法律上の要件を充たしているか、内容に問題がないか等をチェックし、アドバイスをすることもできます。
当事務所には、いくつかの無料法律相談も設けられていますので、どんなことでもお気軽にご相談ください。
- 自筆証書遺言保管制度(以下、「保管制度」といいます)は、遺言者が自筆証書遺言を法務局に預け、法務局において保管してもらうことができる制度です。
自筆証書遺言には、紛失のリスクや遺言者以外の人による偽造・変造のリスクがあることは先にご説明したとおりですが、保管制度では、法務局が自筆証書遺言を保管するため、紛失のリスクはありませんし、保管された自筆証書遺言を閲覧できるのは、遺言者本人だけですので、遺言者以外の人による偽造・変造のリスクもありません。
また、保管制度においては、自筆証書遺言に使用できる用紙のサイズ、筆記具、記載の様式に制限があります。しかし、保管制度利用の際には、法務局において、自筆証書遺言の形式についてチェックを受けることができますので、形式面で遺言書が無効とされるリスクが大幅に減少します。
さらに、保管制度においては、相続発生後の法務局から相続人への通知の仕組みも用意されています。具体的には、①相続発生後、相続人が自筆証書遺言を閲覧するなどした場合に、他の相続人に自筆証書遺言が法務局に保管されていることをお知らせする「関係遺言書保管通知」、②遺言者の死亡後、遺言者が指名した1名の者に対し、自筆証書遺言が法務局に保管されていることをお知らせする「死亡時通知」です(「死亡時通知」は遺言者が希望する場合のみに実施されます)。このような通知の仕組みにより、相続人が遺言の存在を知らないまま、相続の手続を進めてしまう心配がなくなります。
加えて、保管制度を利用する場合には、遺言者死亡後、家庭裁判所における遺言書の検認の手続きを取る必要もありません。
このように、保管制度は、自筆証書遺言のデメリットをカバーしてくれる非常に便利な制度ですが、遺言の内容の有効性まで確認してくれる制度ではないことに注意が必要です。遺言の内容についてお悩みの方は、お気軽に弁護士にご相談ください。
成年後見人について
最終更新日:2016年12月17日- 成年後見制度とは、認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が十分でない人に、その判断能力を補ってくれる援助者をつける制度をいいます。
人が社会生活を営む上では、常に、契約などの法律上の行為に関わり合わなければなりません。例えば、アパートを借りたり、預貯金の払い戻しや預け入れをすることも法律上の行為です。
ところが、高齢になって認知症などになったり、知的障害や精神障害などがあったりして、そのために契約を結ぶことができない等の不利益を被る場合があります。そのような場合、判断能力が低下した人の判断を補い、本人の権利や利益を護ってくれるのが成年後見制度です。
- 認知症、知的障害、精神障害などによって判断能力が低下した場合につけることができますが、その程度によって、成年後見人、保佐人、補助人に分けられます。
- 成年後見人は、本人の判断能力の低下が一番重い場合に利用されます。
本人が、認知症、知的障害、精神障害などによって、おおむね判断能力を欠いている状態にある場合に利用されます。分かり易く言うと、自分自身では物事を判断することが全くできないような場合がこれに当たります。
- 成年後見人が利用される場合に次いで、本人の判断能力の低下が重い場合で、本人の判断能力が著しく不十分と認められる場合につけられます。
ある程度判断能力が残っていますが、大事な財産を管理するには、常に誰かに援助してもらう必要があるような場合がこれに当たります。
- 本人の判断能力の低下の程度が一番軽い場合で、本人の判断能力が不十分と認められる場合に利用されます。
補助の場合、身の回りのことは大体自分ですることができますが、難しい事柄になると援助が必要というような場合がこれに当たります。
- 判断能力の低下がどの程度重いかについては、家庭裁判所が医師の診断書を見て、あるいは医師の鑑定をした上で決めることになります。
- 申立てをすることができるのは、本人、配偶者、四親等内の親族等です。
なお、親族が申立てを行う場合「四親等内」となっていますが、「四親等内の親族」とは、両親、子供、孫、ひ孫、兄弟姉妹、おじ、おば、いとこ、甥、姪、甥姪の子供などです。
- 申立てをする先は、ご本人の住所を管轄する家庭裁判所です。家庭裁判所の窓口に行くと、申立てに必要な書類一式をもらえます。また、弁護士等にご相談頂ければ、あなたに代わって、申立ての手続を致します。
- 申立費用としては、1件について収入印紙800円、郵便切手が若干かかります。各裁判所によって金額が異なりますが、おおむね1万円以内で済むと思われます。
また、ご本人の判断能力の低下がどの程度かを調べるために鑑定をする場合がありますが、その場合は鑑定費用が5万円ないし10万円程度かかる場合があります。ただし、最近の家庭裁判所の取扱いでは、最初にご提出頂く診断書で一見して判断能力が欠けていると分かる場合は鑑定を省略します。鑑定をしない事例が半分以上を占めているのが現状です。
- 金額は事案によって異なりますので、一度ご相談下さい。
- 弁護士費用については、一定の資力基準がありますが、法テラス(司法支援センター)の法律扶助による立替制度をご利用できる場合があります。
法律扶助が利用できれば、弁護士に申立てをしてもらうことが可能です。
- 成年後見人は大きく分けて、財産管理と身上監護をします。
- ご本人の預貯金が無駄に使われたりしないように適切に管理をします。
また、ご本人が施設に入所されたり、病気で入院等する場合には、ご本人に代わってサービス利用や入所の契約をします。
- 例えば、こんな事例が考えられます。
高齢の父親Aさんを持つBさんという方がいるとします。Bさんには、実兄であるCさんがいて、父親Aさんと同居して、Aさんの身の回りの世話をしています。ところが、Bさんが父親Aさんを訪ねたところ、Aさんはやせ細り、きたない布団に寝たきりになっていて、その生活振りを見ると、Cさんから満足な世話を受けられていない可能性があります。また、Cさんは無職で、父親Aさんの預貯金を食いつぶして生活をしている心配もあります。Cさんは、BさんがAさんの預貯金の通帳を見せるように言っても、一切応じず、最近ではAさんに会わせることすら拒むようになったというような状況があったとします。
この場合、Bさんが、父親Aさんを守る有効な手段として成年後見申立てをすることが考えられます。成年後見人がつくと、Aさんの預貯金通帳は、選任された成年後見人が以後管理することになりますので、Cさんが勝手に使うことができなくなります。また、自宅での介護が難しいという状況があれば、成年後見人が介護施設、病院等への入所契約をして、Aさんの身の安全を確保することも可能となります。
- 成年後見人が身上監護をすると言っても、成年後見人が直接ご本人の身の回りの世話をするということではありません。
成年後見人は、実際にご本人の世話をされるご家族、福祉関係者と連携をとりながら、ご本人の身上監護が適切になされるようコーデイネートする役割を担います。
- 誰が成年後見人になるかを決めるのは、申立てを受けた家庭裁判所です。
- できます。
- 可能です。
例えば、高齢で判断能力が低下した父親の成年後見申立てを長男が行い、その長男が成年後見人の候補者ということで申立てをすることもできます。この場合、特に問題がなければ、家庭裁判所はその長男を成年後見人に選任します。このように身内の方が成年後見人になる場合を親族後見人といいます。
- 推薦された人が後見人になれるとは限りません。
管理する財産の規模、他のご親族の意向等により、家庭裁判所が身内以外の者を成年後見人に選任することもあります。
- 成年後見人のなり手がない場合にも、成年後見の申立てをすることができます。
- 家庭裁判所がその事例を見た上で、適当な人を成年後見人に選任します。これらを第三者後見人といいます。
- 弁護士、司法書士、社会福祉士等の有資格者が選任されますが、最近では、社会福祉協議会、NPO法人等の法人後見人が選任されることがあります。また、現時点では少数ですが、将来的には、資格を持たない一般市民による市民後見人が多数選任されるようになるかも知れません。
- 事例の性質(紛争があるか否か)、管理する財産の規模(多いか少ないか)等を考慮して決めていると考えられています。
- 成年後見人は、報酬をもらうことができます。
- 報酬の金額を決めるのは、家庭裁判所になります。
- 成年後見人の報酬は、ご本人の財産の中からもらうことになります。
- 通常、成年後見人は定期的に家庭裁判所に対し、事務処理の報告書を提出しますが、これと併せて報酬請求の申立てをします。
家庭裁判所は、その事務処理の報告を見て、報酬の金額を決めます。
どのような基準で報酬の金額を決めるかについては明らかにされていないので、その基準は不明としか言い様がありませんが、一般的には管理する財産の規模の大きさ、手掛けた事務処理の複雑さ等を考慮して決められるようです。
- ご本人の預貯金等が少額しかない場合には、報酬をもらうことができない場合もあります。
また、親族後見人の場合、三親等内のご親族には法律上扶助義務があることから、報酬請求が認められない場合もあります。
- 任意後見制度とは、ご本人に考える力、判断する力が十分な内に、自分が最も信頼する人に対し、将来、自分が精神上の傷害により判断能力が不十分になった場合に備えて、自分の生活、療養監護、財産管理等に関する事務を委託するものです。
- まず、ご本人と任意後見人となる予定の方との間で任意後見契約を締結します。この任意後見契約は公正証書で行う必要があります。
また、通常、この任意後見契約と一緒に現時点での自身の財産の管理を委託する財産管理契約を締結することもあります。
その後、任意後見人の予定者は、定期的にご本人の生活状況、身体状況を把握し、いよいよご本人の判断能力が不十分になった時点で、家庭裁判所に対し、任意後見申立てを行い、家庭裁判所の決定により任意後見人に正式に就任します。
また、これ以降は任意後見人に対し、家庭裁判所が選任した後見監督人がつけられ、任意後見人が適正に財産管理、身上監護を行っているかを監督させます。
任意後見制度をご利用になる場合は、その依頼する弁護士との間で報酬等につき別途お決め頂くことになります。まずは、ご相談下さい。また、この場合も法テラスよる法律扶助をご利用頂けますので、この点についても気軽にご相談下さい。
債務整理・過払金返還請求など
個人再生について
最終更新日:2016年10月27日- 個人再生とは,借金等により経済的に破綻するおそれのある個人に対して,借金の一部をカットして,借金を返済し易いようにし,経済的な再建を図る制度です。
住宅ローン特則(住宅資金特別条項)を利用すれば,自宅を維持しながら債務の整理をすることができるので,住宅ローンを抱えた方に有用な制度です。
- 任意整理の場合,利息制限法に基づいて再計算した元金等を分割で返済していかなければなりません。
しかし,個人再生の場合,借金の一部をカットでき,返済額を減らすことができます。
破産の場合,借金を返す必要はなくなりますが,自宅を維持することは困難となります。また,破産の申立ては,同時に債務の支払い義務を免れることを求める申立て(免責許可の申立て)を兼ねており,免責が許可されて初めて借金を返す必要がなくなります。しかし,浪費やギャンブルにより,借金等をした場合には,免責が不許可となってしまう場合があります。
しかし,個人再生の場合,自宅を維持することができる場合があります,また,個人再生は,ギャンブルや浪費により借金等をした場合も利用できます。
- 将来継続的に収入を得る見込みがある方で,借金の総額(住宅ローンを除く)が5000万円以下の方が利用できます。
- 基本的には,①と②の金額を比較し,より高い方が弁済額となります。
① 借金等の総額(住宅ローンを除く)に応じて決定される金額
100万円未満・・・・・・・・・・・・・総額全部
100万円以上500万円以下・・・・・・100万円
500万円を超え1500万円以下・・・・総額の5分の1
1500万円を超え3000万円以下・・・300万円
3000万円を超え5000万円以下・・・総額の10分の1
② 保有している資産から求められる清算価値(お金に換えた場合の価値)
算定された弁済額を原則3年(最長5年),月々の分割で返済していくことになります。返済が順調に終われば,残りの借金が免除されます。
※ 住宅ローン特則(後述)を利用して自宅を維持する場合,住宅ローン分は,上記の支払いと別枠で従来どおり(又は支払い期間を延長する等して)支払い続ける必要があります。
※ 給与所得者等再生(小規模個人再生の対象となる方のうち,一般のサラリーマン等将来の収入を確実かつ容易に把握できる方を対象とする制度。再生計画案に対する債権者の同意が不要となる。)では,可処分所得(税引き後の手取り収入からご本人と被扶養者の最低限度の生活を維持するために必要な費用を控除したもの)の2年分以上の額という基準が更に加わります。
- ① 依頼者の方に,債権者リスト(債権者一覧表)を作成していただきます。
弁護士が,それぞれの債権者に対し,弁護士が受任したことを伝え,取引履歴(いつ幾らを借りたか,いつ幾らを返したのかの経過表)を開示するよう求める通知(受任通知)を送ります。債権者は,受任通知が届くと,原則として,依頼者の方に対し,直接,連絡や取立てをすることができなくなります。
↓
② 弁護士が,債権者から開示された取引履歴を検討して正確な取引履歴かを判断します。足りない取引履歴があれば,債権者にさらに請求します。
↓
③ 弁護士が,取引履歴を利息制限法の制限利息に引き直して再計算します。再計算後の借金の額・状況に応じて,依頼者の方と相談した上で,個人再生,任意整理,破産から依頼者の方に一番良い方法を選択します。
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④ 個人再生を選択したときは,申立ての準備に入ります。弁護士が,依頼者の方と話し合いながら申立書を作成します。また,弁護士が,依頼者の方に対し,申立てに必要な書類を説明し,依頼者の方と協力して必要な書類(戸籍謄本,住民票の写し,給与明細等)を揃えます。
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⑤ 申立書および必要書類の準備が整い次第,弁護士が管轄の地方裁判所に申立てをします。
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⑥ 弁護士が,その後の再生手続に対応していきます。
依頼者の方と相談し,再生計画案(債権総額のうち幾らを,いつからいつまで幾らずつ返済していくか等の予定が記載された案)を作成して裁判所に提出します。
裁判所から追加書類の提出を求められた場合,依頼者の方と協力して提出します。
審尋(裁判官との面接)を行う場合もありますが,その時には,弁護士が依頼者の方と一緒に裁判所に出かけ,審尋に立ち会います。
↓
⑦ 再生計画案について債権者の同意及び裁判所からの認可を受けます。認可を受けた計画に基づいて返済をしていくことになります。
- 原則として,破産手続に移行することとなります。
しかし,やむをえない事由で再生計画どおりに返済することが著しく困難となったときには,再生計画の変更の申立てをすることができます。ただし,変更は,再生計画で定められた債務の返済期限を最長2年の範囲内で延長するという内容のものに限って認められます。
また,不慮の事故等によって再生計画どおりに返済ができなくなった場合には,免責の申立てをすることができ,裁判所に許可されれば残りの債務の支払い義務を免れることができます(ハードシップ免責)。ハードシップ免責を受けるためには,①再生計画通り支払うことが極めて困難となっていて,そのことについて債務者に責任がなく,②再生計画を変更するのも極めて困難であり,③既に支払わなければならない債務の4分の3以上を支払っており,④免責の決定をすることが債権者の一般の利益に反するものではないという条件を満たす必要があります。
- 住宅ローン特則(住宅資金特別条項)とは,住宅ローン等の住宅資金貸付債権については従来どおり(又は支払い期間を延長する等して)支払うことにより,自宅を手放さずに済み,その他の借金を個人再生によって減額・分割払いとするという制度のことをいいます。
住宅ローン特則を利用するためには,①一般的な住宅ローンであること②住宅ローンを担保するための抵当権が住宅に設定されていること③債務者本人が住宅を所有していること④債務者本人が住宅に住んでいる又は住む予定であること等の条件を満たす必要があり,利用できる場合が限られています。利用をお考えの方は,弁護士等の専門家にご相談されることをお勧めします。
- 弁護者に依頼することなく,個人再生を申し立てることも可能です。
しかし,弁護士に債務整理を依頼した場合,受任通知を送付した段階で,債権者からの連絡や取立てを止めることができます。
また,そもそも個人再生という手段を選択するべきか,個人再生の要件をみたすのか,どのような再生計画にするのが妥当か及び住宅ローン特則を利用できるのか等個人再生においては,専門的な知識が必要となります。
更に,静岡地方裁判所本庁の運用では,ご本人が申し立てる場合(司法書士に書類作成を依頼した場合も含む),原則として個人再生委員が選任されることとなり,その費用がかかることとなります。
個人再生を申し立てた後も,各手続を,自分の努力により,裁判所が定めた期間内に行うことが必要です。それができない場合には,手続が終了してしまうこともあります。
そこで,個人再生に関しては,弁護士に依頼されることをお勧めいたします。
- 個人再生のご依頼をいただいた場合,当事務所の弁護士着手金は,原則として30万円程度です。これには,受任通知の発送,取引履歴の再計算,申立書の作成,再生計画の作成,債権者への対応等,再生計画が認可されるまでのほとんどの手続き費用が含まれています。
但し,事案により終了時に報酬金又は管理手数料がかかる場合があります。管轄裁判所が遠方等の場合には,別個に交通費を負担していただく場合があります。
また,所得が一定以下の方は,日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助制度により,弁護士費用の立替えを受けられる場合があります。この場合,援助を受けた方は,法テラスに対し,立替えを受けた金額を分割弁済することになります。
更に,債権者の中に取引期間が長期にわたるサラ金等がある場合は,払いすぎた分(過払い金)を取り返すことによって,弁護士費用にあてることができる場合があります。
実際の弁護士費用の金額や支払いの方法については,ご相談いただいた弁護士に個別にお問合せください。
任意整理について
最終更新日:2016年09月05日- 債務整理とは、借金を減らしたり、無くしたり、月々の返済額を減らしたり、また重い利息の負担から解放したりする手続です。その方法としては、①任意整理、②自己破産、③個人再生などがあります。
- 任意整理による債務整理は、裁判所による手続を経ず、弁護士などが間に入って債権者(貸金業者)と交渉することによって借金の整理を行っていく方法です。
具体的には、①法律(利息制限法)の定めを超えて支払った利息については、その払い過ぎた金額を元本に充てて返済すべき元本を減額し、②その減額した元本に対する利息をできるだけカットした形で、数年程度の期間で返済していくよう交渉します。
消費者金融(サラ金)などのように高い利息を取っている債権者に長い間返済を続けている場合には、大幅に返済すべき元金を減らすことができる場合があります。場合によっては元金がなくなってしまうこともあります。
- 任意整理による債務整理は以下の手順で行われます。
① 相談と方針決定
弁護士と相談して、相談者の状況にあった債務整理の方針を決定します。
② 受任通知の発送
債権者一覧表を作成し、債権者に対し、弁護士が代理人についたことを知らせるため、受任通知を発送します。また、この通知で、取引履歴など、相談者のこれまでの借入れに関する資料を出すよう債権者に要求します。
③ 債権者による取引履歴の開示
債権者から取引履歴等の資料が開示されたら、開示された取引履歴をチェックし、未開示の履歴がありそうな場合には更なる開示を債権者に要求します。
④ 利息制限法に基づく再計算
開示された取引履歴などをもとに利息制限法に定めに従って、その時点でいくらの借金が残っているかを調べるための再計算(引き直し計算)をします。法律に定められた利息の制限を超える高い利息を支払っていた場合、払い過ぎた利息は元金に充当して債権全体の額を減らします。
⑤ 交渉
再計算の結果に基づき、今後の支払総額や支払回数などを債権者と交渉します。再計算の結果、既に払い過ぎになっていた場合には、過払金の返還を要求します(債権者が過払金の返還に応じない場合は、債権者である消費者金融(サラ金)などを相手として過払金返還請求訴訟を提起することもあります。)。
⑥ 和解
各債権者と個別に和解をし、和解契約書を作成します。
- お金を借りた人が、利息制限法に定められた利率を超えた利息を支払ったことにより、払い過ぎた金額が生じている場合、その払い過ぎたお金のことを過払金といいます。この「過払金」は、債権者が本来取得することができないものであるので、債務者はその金額について債権者に返還を求めることができます。
- 過払金を回収する場合、まずは訴訟外で貸金業者などと交渉を行います。
貸金業者が返還に応じてくれない場合や、貸金業者から提示された和解案が低額に過ぎる場合には、貸金業者に対して訴訟を提起して過払金の返還を求めることもあります。
- 債務に関する資料が残っていない場合でも、取引のあった債権者さえわかれば、受任通知の発送とともに取引履歴等の資料の開示を求めることができるため、債務の状況を把握することができます。
資料が多く残っていた方が、早い段階で債務整理の方針を定めることができるので、可能な限り資料をご持参いただきたいですが、必ずしも資料が必要なわけではありません。ですから、そのような場合でもお気軽にご相談ください。
- 破産をする場合、全ての借金を裁判所に届け出た上で破産する必要があるため、保証人が付いている借金がある場合、保証人に対し請求がなされることがあります。これに対し、任意整理では一部の債権者とのみ交渉することもできるため、保証人が付いている借金を除いて手続きをすることもできます。
破産により一定の資格(例として建設業者・宅建業者・警備員等)については、破産手続開始を申し立てることによって、資格が制限される場合がありますが、任意整理の場合、資格を確保することができます。
また、自己破産を選択する場合、自宅など、一定の価値のある資産を保持することができなくなりますが、任意整理の場合そのようなことはありません。
加えて、以前に自己破産をしたことがある場合、数年の間は再度破産をして借金の支払いが免除されることが困難ですが、そのような場合にも任意整理による方法であれば債務を整理することができます。
- 任意整理を行う場合、返済すべき借金の額が減額される可能性はあるものの、結局は債務を弁済することとなります。返済は長期に渡ることがほとんどであり、毎月一定額の支払いを数年間継続していく必要があります。したがって、依頼者に返済を継続していくための収入があることが必要です。
交渉の結果、債権者との間で和解が成立しても、月々の返済が実行できないのであれば、結局自己破産することになりかねません。
- 弁護士に依頼すると、すぐに債権者に弁護士の名前で通知を出します。これが債権者に届くと、債権者は債務者に直接連絡することや取立てをすることができなくなるので、債権者からの取立てを止めることができます。また、債務者がその後の返済方法等について、直接相談者と交渉をする必要がなくなります。早めに弁護士に相談し任意整理の手続きを依頼されることをお勧めします。
また、弁護士は、司法書士のように権限に制限がないので、債権者から取引履歴等が開示され、最終的にどのような方針になった場合でも対応することができます。
- 弁護士が任意整理を受任した場合、借金をしたりクレジットカードを作ったりするための審査に際し、金融機関や貸金業者に対して個人の情報を提供している団体(信用情報機関)が保有している情報に「任意整理を行った」との情報が登録されます(このことを一般的に「ブラックリストに載る」と表現することもあります。)。この情報が登録されることにより、債務者は新たにお金を借りたり、クレジットカードを作ったりすることが困難になる可能性があります。弁護士が任意整理を受任した場合の情報の掲載期間は、約5年間といわれています。
- 弁護士費用は、債権者の数や事件の難易度によって異なります。当事務所ではどの弁護士も相談者の経済的な立ち直りを重視し、弁護士費用も依頼者に無理のない範囲内で決めるよう配慮していますので、弁護士費用のことも、弁護士に遠慮なく相談して下さい。
- 収入の少ない方は、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助制度による援助を受けることによって、弁護士費用の立替払制度をできる場合があります。さらに取引期間が長期に渡る場合には、サラ金等から払い過ぎた分(過払金)を取り戻すことによって、弁護士費用にあてることができる場合もあります。
破産について
最終更新日:2016年11月14日- 破産は、借金や滞納している債務を整理する方法の一つです。
債務整理の方法には、他に 任意整理、民事再生手続 という方法もあります。
なお、このQ&Aでは、特に断りがない限り、法人ではない、いわゆる「個人」を前提として、破産手続の解説をしています。
また、「債務者」、「申立人」、「破産者」は、同一の人物を想定していますが、このQ&Aでは、破産手続の準備をしている人で、裁判所によって破産開始決定が出される前の人を「申立人」、開始した後の人を「破産者」と呼ぶことにしています。
- 最大の利点は、破産をした場合、裁判所に破産手続を申し立てたときまでに存在していた債務の支払いを免除されることが多いということです。
破産を申し立てる場合には、裁判所に対し、破産申立時までに負っていた債務について、その支払いの免除を併せて申し立てることが通常です。
債務の支払いの免除を求める手続のことを「免責」といいます。
- 免責されても、支払いを免れない債務もあります。
そのような債務を「非免責債権」といいます。
- 次の①から⑦が非免責債権です。
非免責債権が高額な場合、破産をしても、根本的な解決に結びつかない場合があります。そのような場合には、破産をするか否かについて、弁護士とよく相談する必要があるでしょう。
① 租税等の請求権。
② 悪意で人に与えた損害賠償債務。
③ 故意または重大な過失により人の生命または身体を害した場合の損害賠償債務。
④ 親族関係に係る請求権。
⑤ 雇用関係に基づいて生じた請求権の一部。
⑥ その存在を知りながら、あえて破産手続上の債権者名簿に記載しなかった請求権。
⑦ 罰金等の請求権。
- 「○○税」と名のつくものだけではなく、国民健康保険料や国民年金の掛け金なども含まれます。
- 故意で人を殴って怪我をさせてしまったような場合には、非免責債権に該当します。
そのような場合以外にも、たとえば、暴走運転や飲酒運転をして人に怪我をさせてしまったような場合には、非免責債権に該当する可能性があります。
- 婚姻中の夫婦間に認められる婚姻費用分担義務や養育費などが該当します。
支払ってもらう側の立ち場からすると、義務者が破産したとしても、婚姻費用や養育費は、破産後もそれまでと同じように請求できるということです。
- 法律上、免責が許可されない事情が定められています。
そのような事情を「免責不許可事由」といいます。
- 免責許可を受け、当該免責許可が確定した日から7年以内に免責許可が申し立てられた場合や、破産に至る借金を作った主たる理由が浪費やギャンブルにある場合などが免責不許可事由に該当すると考えられます。
また、破産手続に際して財産を隠したり、破産手続において、負債や資産の状況について説明を拒んだり、嘘をついたりした場合、それらの行為は、免責不許可事由に該当することがあります。
- 免責不許可事由がある場合でも、裁判官が裁量によって免責を許可することがあります。
この場合の免責のことを、「裁量免責」と言います。
- あくまでも一例ですが、浪費やギャンブルによって破産に至ってしまった場合でも、破産を機に浪費やギャンブルを止め、真面目に働いて収入の範囲で堅実に生活しており、破産手続に真摯に協力している場合などは、裁量免責を受けられる可能性があると思われます。
- 債務者は、破産することによって、破産手続が開始された時点で債務者が有していた財産のうち、一定の限度でしか財産を持てなくなったり、一定の職業に資格制限が生じたりします。
また、保証人がついている債務がある場合、保証人が債権者から支払いを迫られるようになることが予想されます。
- 法律上、原則として99万円の範囲内でしか財産を保持できません。
99万円の範囲とは、現金に限らず、預貯金、保険、自動車、退職金など、破産を申し立てた人が、破産手続が開始された時点で持っていた全ての財産を対象とします。
破産手続開始決定後に、破産者が99万円の範囲内で財産を残すことを「自由財産の拡張」と呼びます。
- ① 破産手続開始決定時において、破産者が99万円を超える財産を有することが想定される場合でも、99万円を超えて財産を残すことを認めてもらえるような事情がないかどうかについて、破産申立てを依頼した弁護士とよく協議する必要があるでしょう。
② また、申立人が99万円を超える財産を有している場合には、99万円の範囲内の財産として、いかなる財産を残すかについても破産申立てを依頼した弁護士との間で協議をする必要があります。
- 「破産によって財産が99万円の範囲に限定される」というときの財産は、破産手続が開始された時点で破産者が有していた財産を対象としています。
破産手続が開始された後に、お給料や国民年金、厚生年金が支給され、その結果、破産者が破産手続開始後に99万円を超える資産を持つことになったとしても、99万円を超える分の財産を手放さなければならないわけではありません。
ただし、企業年金や私的な年金は、「99万円の範囲内の財産」として残すかどうか(自由財産の拡張)の場面で考慮されることになります。
- 夫のみが破産した場合、99万円の制限を受けるのは、基本的には夫名義の財産です。
- 法律上、警備員は、破産をしてから「復権」を得るまでは、警備員になってはいけないとされています。
また、保険外交員は、破産手続が開始されると、「復権」を得るまで、資格の取り消しを受けたり、業務の停止を命令されたりすることがあります。
「免責」が認められると、法律上当然に「復権」を得ることができます。
- 裁判所に対して破産を申し立てるまでと、申し立てた後に分けて説明します。
- 裁判所に破産を申し立てるためには、申立人の財産と負債について、裁判所に申告する必要があります。そのため、申立人の財産や負債に関する資料を集める必要があります。
また、裁判所の書式に則って、破産に至る経緯や家族構成や現在の生活状況などを書面で申告する必要があります。
破産を申し立てるまでには、このような書類を作成したり、必要書類を集めたりする必要があります。
- 大きく分けて2通りの流れがあります。
一つ目は裁判所が破産管財人を選任する場合、二つ目は裁判所が破産管財人を選任しない場合です。
- 裁判所が選任する弁護士で、裁判所とともに、申し立てられた破産手続を取り仕切る立ち場にあります。
管財人は、破産者から提出された説明や資料を検討し、破産者の財産や負債の説明に誤りがないかをチェックします。
管財人において、破産者からの説明や資料に不足があると考える場合には、破産者やその代理人弁護士に説明や資料の追加提出を求めたり、管財人が直接、関係機関に対して照会を行ったりします。
また、管財人は、原則として99万円の範囲内でいかなる財産を破産者に残すべきか、ということについて、裁判所に意見を上申します。
さらに、管財人は、破産者に対して免責を許可すべきか否かについても、裁判所に意見を上申します。
- 静岡地方裁判所の場合ですが、①免責不許可事由があると考えられる場合、②申立人が破産申立から2年以内に個人事業をしていた場合、③破産申立時に20万円を超える資産を有している場合などが挙げられます。
- ① 申立後、書類や説明に不備がないかを裁判所がチェックします。
不備がある場合、裁判所から、追加の説明や資料の提出を求められます。
裁判所の要請に応じ、追加の説明書類や資料を提出します。
② 裁判所において、十分な説明、資料の提示を受けたと考える場合、裁判所は破産手続の開始を決定します。
破産によって財産の制限を受けることになる基準時や資格の制限を受け始める時期は、破産手続の開始が決定された、このときです。
破産手続が開始された後、裁判官と破産者が面談をする日にちが設定されます。破産者は、定められた日に裁判所に出頭することになります。
静岡地方裁判所の本庁(静岡市所在)では、破産を申し立てた後、3か月程度後に、裁判所に出頭することが多いと思われます。
③ 裁判所で、裁判官と面談します。
弁護士に申立てを依頼している場合、弁護士も面談に同行することが通常です。
裁判官は、破産者から当該破産申立てに関して直接話を聞き、債権者の意見を踏まえつつ、破産者に免責を許可すべきか否かを決定します。
④ 免責が許可され、弁護士に申立てを依頼している場合、裁判所へ出頭した日から、2~3日ほど後に、申立てを代理した弁護士のもとに、免責を許可した旨の書類が送付されることが通常です。
- 破産管財人は、裁判所が選任し、破産手続を取り仕切る弁護士ですが、無償で仕事をしてもらうことはできません。
破産管財人が選任される場合には、当該管財人に対する報酬が必要となります。
そのため、申立人は、破産申立と同時か、申立てに近接した時点で、裁判所に対して、管財人の報酬金を予納しなければなりません。
管財人の報酬金が予納されない限り、破産の手続は進みません。破産管財人が選任されることが予想される場合には、準備段階において、然るべき金額の予納金を工面できるかどうかを検討しなければなりません。
- 最低でも20万円程度は必要になるものと考えられます。
ただし、申立人の負債の規模や管財人が処理しなければならないと考えられる仕事量に応じて予納金は増額されることが通常です。
20万円というのは、あくまで最低限の金額とお考えください。
- 持っている資産を現金化したり、保険を解約して解約返戻金を取得したりすることが考えられます。
しかし、理由や必要がないにも関わらず、資産を現金化することは、財産を散逸させる行為とみなされる場合があります。また、不適切な金額で処分をしてしまうと、後の破産手続で、当該処分が問題となることもあります。
資産を現金化するか否か、現金化する場合にはどのように現金化するのかについては、申立てを依頼する弁護士と十分に検討する必要があります。
- 法テラスが予納金を立て替えてくれることがあります。
申立てを依頼する弁護士に相談してみてください。
- ① 申立後、書類や説明に不備がないかを裁判所がチェックします。
不備がある場合、裁判所から、追加の説明や資料の提出を求められます。
裁判所の要請に応じ、追加の説明書類や資料を提出します。
② 裁判所が破産手続の開始決定を行い、管財人を選任します。
管財人が申立資料及び補足資料を検討し、説明不足、資料不足だと考える事項があれば、補足の説明や資料提出を求めます。申立てを弁護士に依頼している場合、管財人は、説明や資料の要請を申立代理人弁護士に求めることが多いと思われます。
管財人と破産者との間のやり取りは、1度で済む場合もあれば、何度も行われる場合もあります。
③ 破産者は、99万円の範囲内でいかなる財産を残すべきかについて、管財人に対して希望を述べます。破産申立てを弁護士に依頼している場合には、当該弁護士が管財人に対して意見を表明してくれることが通常です。
管財人は、破産者の希望を踏まえて、いかなる財産を破産者の手元に残すかについて、裁判所に意見を上申します。
静岡地方裁判所の本庁では、通常、管財人が意見を述べた意見どおりに、自由財産が拡張された(破産者は、管財人の意見どおりに財産を保持できる)ものとして扱われます。
④ 管財人は、破産者に隠れた財産が無いかを調査し、自由財産として拡張された物以外の財産は、債権者への分配を目指して、処分・換価していきます。
破産者が不動産を所有している場合、管財人は、不動産の売却に努めることが通常であると思われます。
⑤ 破産手続が開始されてから、3か月程度後に、1回目の債権者集会が開かれます。
債権者集会とは、債権者に対して、破産者が破産に至った理由・経緯、債権者に分配できる財産があるか否かなどを説明する手続です。
裁判所で開かれ、管財人が債権者に対する説明を行うことが通例です。
この機会に、破産者の免責を許可すべきか否かについても、管財人より意見が述べられます。
管財人が、破産者から十分な説明を受け、債権者に分配できるような財産もない場合には、1回目の債権者集会で破産手続は終了します。
⑥ 管財人による財産の処分・換価が未了である場合、債権者に対して分配できるような財産がある場合などは、2回目の債権者集会が予定されます。
債権者に対して財産を分配するか、分配できないことが定まるまで債権者集会は回を重ねることになります。
⑦ 免責が許可され、弁護士に申立てを依頼している場合、最後の債権者集会が行われた日から2~3日後に、代理人弁護士のもとに裁判所から、免責許可に関する書類が送付されることが通常です。
- 管財人が選任される場合、破産者宛ての郵便物は、管財人の事務所へ転送されることが通常です。
管財人は、転送された破産者の郵便物を閲覧することができます。
破産手続を申し立てるにあたって、預貯金、株式、保険を隠匿しようとしても、破産手続が開始された後に、当該財産に関係する郵便物が管財人に転送され、隠匿が発覚するということもあります。
転送された郵便物は、破産者が管財人の事務所に取りに行ったり、管財人から破産者宛に郵送してもらったりすることが多いと思われます。
労働事件
ブラック企業について
最終更新日:2016年05月12日- ブラック企業とは、広い意味では「違法な労働を強い、労働者の心身を危険にさらす企業」を言います。
ブラック企業にひとたび就職してしまうと、長時間労働、賃金の未払い、パワーハラスメント、過労によるうつ病や自殺など、労働者の心身の健康が危険にさらされます。
- ブラック企業の被害の中心は若い世代です。若い世代は、働いて現代の産業を支え、税や保険を納めているだけでなく、家庭を持って次の世代への繋ぎ手となる、いわば現代と将来の社会の担い手です。それらの若者が、ブラック企業に心身を壊されていくことは、日本の社会にとって大きな損失です。また、一部のブラック企業が労働者を使い捨てにして、失業給付金や労災保険、障害年金などの支給額を上げて、負担を社会に転嫁しているともいえます。さらに、ブラック企業が蔓延すると、労働者の働く意欲を削ぎますし、法を守っている会社が競争で負けていき、法を守ろうという気運が下がっていくでしょう。
ブラック企業が蔓延することは、そこで働く人個人の問題ではなく、社会の問題です。
- ブラック企業を見分けるチェックポイントは、①新卒の3年後の離職率が高いか、②過去に過労死、賃金の未払、セクシュアルハラスメントやパワーハラスメントが問題になったことはないか、③残業時間や有給休暇の取得日数に異常はないか、④残業代が固定になっていないか、⑤求人広告や説明の内容がコロコロ変わっていないか、⑥求人票と実際の待遇に違いはないか、⑦短期間で管理職になることを求められていないか、⑧労働組合はあるか、などです。
特に重要なのは、新卒の3年後の離職率です。新卒の3年後の離職率の平均は約30%です。それよりも高い場合は注意が必要です。平均離職率だけでなく、男女別の新卒の定着率を見て、一方が異常に低い場合、性別によって働きにくい事情がある可能性があります。
次に大事な情報は、残業時間と有給休暇の取得日数です。
- 情報源は、会社の求人票、四季報、ニュースや新聞などです。就職情報誌では、会社はお金を払って雑誌に載せているので、会社に不利な情報は載せにくいという事情があるので過信はできません。四季報には、離職率や定着率、残業時間や有給休暇の取得率などが載っています。ただし四季報でも会社にとって不利な情報は無回答になっていることがありますし、ブラック企業は虚偽の申告をすることもありますので、注意が必要です。
最近は、就職活動中の人のための参考として、大学やブラック企業被害対策を目的としたNPOがブラック企業の見分け方に関するパンフレットを作成しており、インターネット上でも手に入ります。
- 最近はアルバイトでも、長時間労働、正社員と同じ仕事内容なのに仕事に見合わない低賃金、残業代の未払い、辞めたくても辞めさせてもらえない実態など、ブラックバイトが問題になっています。
ブラック企業は、アルバイトだから待遇が悪くても仕方がない、というような言い方をしますが、それは違います。アルバイトでも労働者ですから、働いた分の賃金はもらえますし、企業側に労働者の心身の安全について配慮する義務があることなど、労働者としての権利は保護されます。
- 会社がブラック企業なのに、勤めている本人が気づいていない、または認めない場合もあります。本人の家族や周囲の人はご心配でしょう。
これは、ブラック企業が従業員を研修や日勤教育で洗脳しているといった実態が影響しています。
また、やはりブラック企業のよく使う手段として、従業員に過重な仕事をさせて過労状態にしたり、経験に見合わない難しい仕事をさせたりして、失敗すると叱責や罵倒を加えて自分を責める心理に労働者を陥れて会社を辞められなくさせるというものがあります。
その他にも、労働者が辞めようとすると、会社が莫大な損害賠償責任を追及すると脅すこともあります。
このように、労働者がブラック企業を辞めようとしないからといって、本人の自由な意思とは限らないのです。
- 周囲の人としては、会社がブラック企業だと気づかせてあげることが必要で、ブラック企業から身を守る方法を知るために法律相談へ行かせることなどが必要です。専門家から、ブラック企業から身を守る方法についてアドバイスがあります。
もし、労働者本人が会社に洗脳されてしまって法律相談へ行こうとしない場合、家族だけでも法律相談に行ってください。ブラック企業の実態について理解したり、いざというときのための出勤時間や帰宅時間の記録の仕方、仕事の指示のメールや電話の記録をとるなどの証拠の収集や保存の仕方についてアドバイスを受けたりするメリットがあります。
その他、行政機関なら労働基準監督署、信頼できる労働組合がある場合は労働組合、労働組合がない場合でも一人でも入れる合同組合(ユニオン)、などに相談する方法もあります。
ブラック企業に勤めていると、労働者自身が心身の健康が害されるだけでなく、家族も稼ぎ手や大事な家族を害される危険にさらされます。本人一人の問題ではなく、家族の問題でもあるのです。本当に大事なのは、仕事ではなく心身の健康と家族です。
- 問題解決する方法としては、会社との交渉、労働局の助言・指導やあっせん、労働基準監督署の是正勧告、裁判所での調停や訴訟、労働審判、弁護士会のADRなどがあります。
会社に対し一人で立ち向かうと嫌がらせをされたり解雇にされたりするのではないかと不安になることでしょう。そのような場合に、労働組合の支援を受けたり、弁護士を代理人として依頼して交渉をすることができます。
弁護士に相談する場合、労働問題は専門性が高いので、労働問題の知識や経験が豊富な弁護士を選ぶ必要があります。
当事務所は労働問題の実績が豊富で、各弁護士が労働問題の弁護団に所属したり、日々研究や情報交換をしたりしています。
『働く人のためのブラック企業被害対策Q&A 知っておきたい66の法律知識』という本が発売されておりますので、参考までに是非ご利用下さい。
解雇について
最終更新日:2016年05月11日- 解雇は使用者による一方的な労働契約の解約で、労働者の承諾が必要とされないのに対し、退職は労働者と使用者の合意や労働者の一方的な解約といった労働者の意思に基づいたものになります。解雇の場合には、後に述べる解雇予告や解雇に関する制限が適用されることになります。
- 大きく分けて懲戒処分としての懲戒解雇とそれ以外の普通解雇があります。懲戒解雇とは、職務懈怠・勤怠不良・業務命令違反・職場規律違反などに対する懲戒処分として行われる解雇であって、最も重い懲戒処分にあたります。懲戒解雇の場合には、後に述べる解雇予告もなしに即時に解雇となり、解雇予告手当や退職金も支給されないことが多いです。
また、普通解雇のうち、使用者側の経営事情などによって生じた従業員数削減の必要性に基づき労働者を解雇することを整理解雇と言います。
- そんなことはありません。期間の定めのある労働契約は原則としてその期間中労働者を解雇することはできませんし、期間の定めのある労働契約についても、以下のとおり法律によって解雇について制限が加えられています。
まず、次で述べる解雇予告というものが必要となります。
そして、就業規則や労働協約で解雇する場合の手続条項が定められている場合には、当該手続を踏まないで行われた解雇は無効となります。
また、労働契約法16条において、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されていて、解雇権の濫用と判断される場合には、解雇が無効となります。
さらに、業務上の傷病による休業期間及びその後の30日間は解雇できませんし、産前産後の女性が労働基準法65条によって休業する産前6週間、産後8週間及びその後30日間は解雇できないとされています。
- 使用者が労働者を解雇しようとする場合、少なくとも30日前にその予告をしなければならないとされています。30日前に解雇予告をしない場合には30日分以上の平均賃金を支払わなければならないとされています。ここでいう平均賃金とは、算定しなければならない事由の発生した日以前3か月間にその労働者に支払われた賃金の総額(ただし、ボーナス等は除きます。)を、その期間の総日数で割った金額を言います。
ただし、「天変事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」と「労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合」にはこれら制度の適用はありません。
- 最高裁判所の判断では、解雇の通知は即時解雇としては効力が生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後30日の期間を経過するか、または予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力が生じるとされています。
- 労働基準法上、労働者の求めがあった場合、使用者は退職の事由を記載した証明書を交付すべきものとされ、解雇のときには解雇理由も記載しなければならない(解雇理由証明書)とされています。
したがって、まずは使用者に対して解雇理由証明書の交付を請求するようにしてください。記載が不十分な場合には、再度解雇理由につき具体的な記載のある解雇理由証明書の交付を請求してください。
- 裁判外の交渉と裁判手続として労働審判、仮処分、訴訟という手段があります。
- 解雇した理由がどのようなものなか、その解雇理由に該当する事実が本当に存在するのか、存在するとしてそれを根拠に解雇することが違法ではないのか等の点について質して、復職を目指していくことになります。
ただし、労働者個人が直接交渉しようとしても、まともに対応してくれない場合もあり、そのような場合には弁護士等を通じて交渉する必要があります。
弁護士が付いた場合には、弁護士名義での内容証明郵便の送付をする等して、使用者との交渉を行い、示談による解決を目指します。
- 労働審判官(裁判官)1名と労働者側・使用者側の団体から推薦された各1名からなる合計3名の合議体で審理・判断を行う手続です。特徴として、原則として3回以内で審理が終結し、3,4か月程で手続が終わるので、訴訟と比較して迅速な手続となっています。期日における主張・立証に基づいて調停(話し合い)がなされ、調停が成立すると裁判上の和解と同一の効力が生じます。調停が成立しなかった場合には、審判という形で主張・立証に基づいて合議体で判断を下すことになります。ただし、この審判は当事者から2週間以内に異議が出されると効力を失い、訴訟に移行することになります。
訴訟に比べて短期間で終了することと、話し合いという側面が強い制度ですので、早期解決を目指す手段を考える際に、有力な選択肢の一つになります。ただし、復職を目指しているが会社が復職に対して強硬に拒否している場合には、復職を認める審判が出されても、それに対して異議が出され訴訟に移行する可能性が高いので、労働審判を利用するかどうかについては個々のケースに応じて判断する必要があります。
- できます。離婚の場合に調停を経なければならないとなっているのとは異なり、労働審判を経なければ訴訟提起ができないとはなっていません。むしろ、『裁判外の交渉とはどのようなことをするのですか。』で述べたとおり、使用者側が復職に応じない姿勢の場合には労働審判での解決が難しく、労働審判を先に申し立てた場合には労働審判・訴訟と時間をかけることになり、いきなり訴訟をする場合よりもかえって長引いてしまうことがあります。したがって、事案によって労働審判と訴訟を使い分けることが重要です。
- 解雇を裁判で争う場合に、判決等の最終的な解決までに時間がかかるので、解決までの生活費に困ることがあります。このような場合に、判決等が出るまでの暫定的な措置として、労働契約上の権利を有することを仮に定める「地位保全の仮処分」や賃金の仮払いを求める「賃金仮払いの仮処分」があり、当面の生活費に困るような場合にこれら措置を求める申立てることがあります。これらは、あくまでも暫定的な措置ですので、訴訟等を提起していること、又は後に提起することが前提になります。
賃金仮払いの仮処分の決定が出ると、ある期間につき月々一定額の仮払いがされることになります。
- 病気・怪我そのものを理由として解雇することは認められていません。また、傷病が業務上のものである場合には、その休業期間とその後の30日間は解雇できません。ただし、病気・怪我により労働能力を喪失したことを理由に解雇することが、「客観的に合理的な理由」があり、かつ「社会通念上相当」といえるかどうかで判断されることになります。判断に当たっては、①病気・怪我の存在が労働能力に与える影響の大きさ、②病気・怪我の回復の可能性、③他の業務などへの配転の可能性などが要素となります。
- 当該労働契約においてどの程度の勤務成績が求められていたかが判断要素になります。
例えば、新卒採用の労働者について、相対評価で平均的な程度に達していないことを理由とする解雇は無効になります。なぜなら、相対評価で下位の評価に属する者は必ず存在するからです。そして、新卒採用の労働者については、入社後数年間という早い段階には、教育・指導による改善する可能性が十分に認められる余地があるので、会社側がどのような教育、指導をし、それに対し、労働者がどのような対応してきたのかといった経緯が問題とされ、是正のために注意し、反省を促したにもかかわらず改善の可能性が認められない場合にはじめて解雇が認められます。
- 欠勤や遅刻により直ちに解雇が有効とされるわけではなく、欠勤や遅刻の回数、程度、期間、態様、その理由、勤務に及ぼした影響、使用者からの注意指導と労働者の改善の見込みの有無などを判断要素として、会社から排除することが正当化できるかが問題となります。
また、勤務態度の不良についても、会社が注意・指導したにもかかわらず、接客態度や業務上のミスが改まらないなど勤務態度の不良が繰り返された場合にはじめて解雇が有効となります。
- ①人員削減の必要性があること、②解雇回避努力が尽くされたこと、③人選基準とその適用が合理的であること、④労働組合もしくは被解雇者と十分協議したこと、という4つの判断基準に基づいて権利濫用にあたるかどうかを判断することになります。
例えば、②に関して、役員報酬カットなどの経費削減策、新規採用の停止、労働時間短縮や昇給停止、一時金の支給停止、配転、出向、一時帰休、希望退職募集などの解雇回避努力を尽くしたか否かがポイントになります。また、希望退職の募集をせずにいきなり指名解雇した場合には、解雇回避努力を尽くしていないと判断されることが多いです。
また、③に関連して、工場のパート従業員の中から勤務態度、協調性、作業能率及び品質作り込み状況を評価して解雇対象者を選定したケースについて、評価項目は恣意的な判断に流れやすいものであるとして、これら評価項目を選定基準として採用するためには、日頃から人事考課を行っているとか、選定までに十分な調査を行うなどの前提が整わない限り、合理性のある基準とはいえないとした裁判例があります。
- 反復更新されてきたような場合や雇用継続に対する合理的な期待がある場合には、解雇の場合と同様に雇い止めが制限されることがあります。
- 試用期間中の本採用の拒否は、試用期間中の解雇となるので、訴訟や労働審判等の法的手続によって争うことができます。
試用期間の本採用拒否は、採用時は不明だったがその後の試用期間中の調査や観察に基づいて明らかになった事由がなければ許されず、職務の内容や職場に適合しないということを理由とする場合には、その事情が客観的に明らかにされなければならないと考えられています。
刑事事件・少年事件
刑事事件について
最終更新日:2016年05月12日- 警察がXさんを「逮捕」した場合、警察は原則として48時間以内に、Xさんの事件について、関係書類とともに、Xさんを検察庁に送る手続をとらなければなりません。このように警察が検察庁に事件を送ることを「送検」と言います。
今回は、Xさんが逮捕されているという前提ですが、逮捕されずに事件が検察庁に送られる場合があります。報道でも耳にすることがあるかもしれませんが、この手続は、事件に関係する書類だけが検察庁に送られるため、「書類送検」と呼ばれます。
→細かい説明よりも、とにかく流れを知りたいという方はこちらへ
事案が軽微な場合には、微罪処分として、警察官が本人に口頭注意をするなどして、事件を検察官に送らない場合もあります。
この場合、問題となった行為についての刑事事件は、これで終了となります。
ただし、民事事件としての損害賠償請求をされるかどうかという問題は残ります。
詳しくはこちらをご参照ください。
- 検察官は、送検されたXさんについて、更にXさんの身柄を拘束すべきか否かを判断します。ここでいう更なる身柄拘束の手続は、「勾留(こうりゅう)」と呼ばれています。
検察官は、送検(書類送検を除く)時から24時間以内に、しかも、Xさんが逮捕されたときから72時間以内に、勾留の手続をとるか、Xさんを釈放しなければなりません。
- 検察官が裁判所に対してXさんを勾留することの請求し、裁判所が勾留を許可した場合、Xさんは、検察官による勾留請求の日から10日間身柄拘束されます。
- 勾留は最大10日間延長することができます。そのため、勾留は合計20日間続く可能性があります。延長されるかどうかはケースバイケースです。
- 検察官は、Xさんの勾留期間中、警察と協力してXさんを取り調べたり、被害者とされている人や目撃者に事情を聞いたり、現場検証を行ったりします。検察官は、これらの結果を踏まえて、Xさんを裁判にかけるかどうかを決めます。
刑事裁判と言っても、大きく分けて2種類の裁判があります。略式裁判というものと、みなさんがテレビで見るような普通の裁判です。
Xさんが普通の裁判にかけられることが決まった場合、裁判が終了するまで身柄拘束が解けない可能性があります。
- あくまで「一般的によくある流れ」という留保をさせてもらいますが、まず、逮捕後72時間以内に勾留されるかどうかが決まります。
勾留されると10日間(延長されれば最大20日間)、身柄拘束が続きます。
つまり、一旦逮捕されてしまうと23日間、身柄拘束が続く可能性があるということです。
勾留期間中に、検察官が、Xさんを裁判にかけるという決定をすれば、通常は裁判が終了するまで身柄拘束は続きます。検察官がXさんを裁判にかけない、あるいは略式裁判にかけるという決定をすれば、Xさんは釈放されます。
なお、裁判にかけることを「起訴(きそ)」と言います。
- 略式裁判とは、本人が有罪を認めていて、正式な裁判を受けず、書類だけの裁判を行うことについて同意をした場合に行われる裁判のことです。略式裁判の場合には、科される刑罰が、罰金と科料(かりょう:小さい罰金のようなものです)に限定されている点が大きな特徴です。
ストレートに言うと、略式裁判になった場合、その事件では刑務所に入らなくていいという結論が決まっているということです。
略式裁判によって決定された罰金等を支払うことで刑事の手続は終了します。
- これもあくまで、一般的によくある例ということでご理解いただきたいのですが、起訴されてから1月から1月半後くらいに1回目の裁判が行われます。
1回目の裁判では、Xさんが、本当に今回の事件を起こしてしまったのか、ということや、事件の内容、被害者のお気持ち、Xさんにも酌むべき事情があるのかなどということについて審理がされます。
そして、多くの場合、1回目の裁判から1週間から2週間後に2回目の裁判があり、そこで判決が言い渡されます。判決に執行猶予(しっこうゆうよ)が付されれば、Xさんは判決の日に釈放となります。
- 「被告」も「容疑者」も、どちらも正式な法律用語ではありません。
報道機関が「被告」という言葉を使うときは、裁判にかけられた人(起訴された人)を意味しているようですが、そのような人は法律上「被告人」と呼ばれています。
また、「容疑者」とは、刑事裁判にかけられる前の段階で、警察に逮捕されていたり、取調べを受けていたりする人のことを指しているように思います。このような人は、法律上、「被疑者(ひぎしゃ)」と呼ばれています。
簡単に言うと、裁判にかけられていないときは被疑者、裁判にかけられると被告人になるということです。
- 被疑者、被告人自身や、その家族など被疑者・被告人と一定の関係を有している人が、被疑者・被告人のために、自分で刑事事件の依頼をして選んだ弁護人のことです。
- あまりお金を持っていない人や、お金があっても弁護人についてくれる人がいない人のために、国が選任する弁護人のことです。
- 私選弁護人は原則としていつでも選任することができますので、国選弁護人に限ってお話しします。
国選弁護人は、被疑者が勾留される段階で選任されます。ただし、犯罪の種類によっては、国選弁護人が選任されない場合もあります。
被疑者段階で全く弁護人が付いていない場合は、起訴されたときに国選弁護人が選任されます。
→ 「勾留」については、こちらをご参照ください。
→ 「被疑者」「被告人」については、こちらをご参照ください。
→ 国選弁護人が選任されない事件についてはこちらをご参照ください。
- 被疑者段階では、長期3年以下の懲役刑が設定されている犯罪(たとえば住居侵入罪)などの事件や勾留がされる前には、国選弁護人を付けることはできません。
もっとも、長期3年以下の懲役刑が設定されている犯罪でも、被疑者が起訴されて被告人になったときには、国選で弁護人を付けることができます(被告人国選弁護人)。
「静岡県での話」という留保を付しますが、国選弁護人は、静岡県弁護士会が作成した名簿にしたがって、機械的に選任されます。
名簿に登録を希望するかどうかは、弁護士個人の選択に委ねられていますが、静岡ではかなりの割合の弁護士が名簿に登録をしていると思われます。
ときどき、「国選弁護人というのは、『国選弁護人事務所』とでも言うべき特定の事務所に所属している弁護士で、他の普通の事務所の弁護士さんとは違うんですよね?」という、御質問を受けることがあるのですが、そのようなことはありません。普段、普通に仕事をしている弁護士が、特定の事件を国から依頼されて弁護をしています。
- 国選弁護人と私選弁護人とでは、その弁護士が行うことができる弁護内容に違いはありません。私選弁護人でなければできない手続は一切無いということです。
- 一切ありません。
- 国選弁護人の利点は、お金が一切かからないことが多いということが挙げられます。ただし、国選弁護人の場合でも、裁判所から費用の負担を命じられることがあります。
- 国選弁護人の欠点としては、先ほどお話したように、国選弁護人は名簿順で機械的に選任されますから、希望する弁護士を選任することはできないということです。
もっとも、これもまた先ほどお話ししたように、選任される弁護士は、いわば「一般の、普通の」弁護士ですから、私選の方が優秀、国選の方が優秀でないというわけではありません。
- 国選弁護人の場合、一度弁護人が選任されると、新たに私選弁護人を付ける場合以外には、原則として、当該事件が終了するまで弁護士を変更することはできません。
- 私選弁護人の利点としては、好きな弁護士を選任できるということです。これが国選弁護人との最大の違いです。
知り合いの弁護士に依頼する、従業員が逮捕されたので会社の顧問弁護士に依頼する、刑事弁護に強い弁護士に依頼する、何人かの弁護士と面談してみて人柄の良さそうな弁護士に依頼する、こういうことが可能だということです。
また、私選弁護人の場合には、依頼を受ける弁護士が了解すれば、どのような事件であっても複数の弁護人を選任し、複数の弁護人が共同で事件に取り組むことができます。これに対し、国選弁護人の場合には、裁判所が複数選任の必要性を認めた場合でなければ、複数の弁護人が選任されることはありません。
- それなりのお金がかかるということです。
ご参考までに、当事務所の弁護士に刑事事件を依頼する場合の弁護士費用は、このようになっています。
- 私個人の考えとしては、どちらでもいいと思っています。
一生懸命やってくれる国選の先生であれば、国選でも全く問題は無いと思いますし、実際にも、「国選だから・・・、私選だから・・・。」という弁護士は、静岡には少ないように思います。
- 「接見禁止(せっけんきんし)」という処分がされていなければ面会は可能です。
なお、接見禁止が付されていても、その人の弁護人となった弁護士は面会することができます。
→面会の具体的なルールについては、こちらをご参照ください。
ここでは、一般の人の面会のことを「一般面会」と呼んでお話します。
- 一般面会の場合、面会できる時間帯や曜日が限定されています。
警察署によっては、たとえば「月曜日の午前中は入浴のため面会できません。」と言われたり、「○○さんは、今日は検察庁で取調べがあるので面会できません。」と言われたりすることがあります。
そのため、面会に行く前に、警察署の「留置管理課(りゅうちかんりか)」に目的の人と面会が可能かどうか聞くことをお勧めします。 - 一般面会の場合、面会できる時間に制限があります。
多くの警察署、拘置所では、1回あたり面会の時間は15分程度と定められていると思います。 - 一般面会の場合、被疑者、被告人が面会できるのは、弁護人を除いて1日1組までとされている場合があります。
たとえば、4月1日の午前10時から被疑者の妻が面会をすれば、同じ日に他の人はその被疑者と面会することはできないということです。
特定の被疑者だけ朝から晩まで多くの人と面会をして、他の被疑者が面会する時間が無くなってしまうということになると不公平になるからです。
なお、1会の面会で同席が可能であるのは、3名までと定められていることもあります。
- 一般面会の場合、面会できる時間帯や曜日が限定されています。
- 一般面会の場合は警察官が同席しますが、弁護士面会の場合、原則として警察官が立ち会うことはありません。弁護士との面会は秘密が守られているということです。
また、弁護士面会の場合は原則としていつでも面会が可能です。
そのため、一般面会の時間外にどうしても被疑者、被告人に伝えなければならないことがある場合には、弁護士を通して被疑者、被告人に伝えることが可能です。
また、弁護士は一日に何回も同じ被疑者、被告人と面会することができます。
- 被疑者、被告人に接見禁止処分が付いていなければ、手紙を「差入れ」することはできます。また、被疑者、被告人から手紙を出してもらうこともできます。
- 警察署の中ではお菓子を買って食べたり、文房具を買ったりすることができます。また、警察署から提供される昼食や夕食に代えて、自費で食事を購入することができます。
そういったことのためにお金を必要とする方もいます。そのため、ご親族の方などがお金を差入れすることはあります。ただし、警察署によっては、捕まっている人が所持できる金額が「1人2万円まで」といった制限があることがあります。
- 警察署では、自殺防止のため、ヒモが付いているズボンやパーカーなどを差し入れすることは制限されています。同様の観点からランニングも差し入れすることができないことがあります。
また、女性の場合、あまりに華美な下着については差し入れが制限されることがあるようです。
なお、差し入れが無い場合でも、警察署にある衣類を貸してもらうことはできます。
- 自殺防止や毒殺防止の観点から、口に入れるものは差入れできません。
病気を抱えている人は、警察署や拘置所で定期的に行われる医師の診察を受けて薬を処方してもらうことになります。
- 起訴された後には、「保釈(ほしゃく)」という制度があります。
裁判官が、被告人を一時的に釈放しても逃げてしまう恐れがない、証拠を隠滅する恐れがないと判断すれば、保釈金を積んで一時的に釈放してもらえる可能性があります。
- 事件の内容によってケースバイケースですが、最低でも100万円から150万円程度は必要になることが多いと思われます。この保釈金は、被告人が逃亡せず、裁判所に最後まで出頭すれば、返金されます。
- そのようなことは一切ありません。
- 保釈されるかどうかは、その人を一時的に釈放しても逃げる恐れがない、証拠を隠滅する恐れが無いと裁判官が判断するかどうかによります。
否認しているからと言って直ちに保釈ができないというわけではありません。しかし、裁判官の一般的な傾向として、被告人が否認していると、犯罪を行なったことを認めている場合と比較して、被告人が逃げてしまう恐れが高いのではないか、と考えているように思います。
- 警察署の留置場の収容状況によっては、起訴された後に、警察署とは別の場所にある「拘置所」に移動させられることがあります。
拘置所に移動するか否か、それがいつになるのか、ということはケースバイケースです。拘置所に移動せず、裁判を終了する方もいます。
また、保釈により一時的に釈放される場合があることはこちらをご参照ください。
- 刑事事件で、執行猶予判決を得たり、裁判にかけられなかったとしても、民事上の損害賠償責任(治療費や慰謝料などの支払い)を免れるわけではありません。
もっとも、通常、このような事件では、国選であるか私選であるかを問わず、刑事事件の弁護人が被害者と示談をするような方向で動くことが通常です。刑事事件の中で示談が成立すれば、通常、被害者との賠償問題も刑事事件の中で解決することができます。
- 事件の内容や、その人の前科前歴の有無、前科の内容や程度によっては、被害者との間で示談を成立させても刑事裁判にかけられることはあります。同様に、被害者と示談をしても執行猶予付の判決を得られないこともあります。
しかし、被害者と示談ができたかどうかは、刑事事件の手続上も非常に重要で、起訴をするか否か、執行猶予を付けるか否かにおいて重要な判断要素となっています。
- 逮捕されてしまった人は、警察署の留置場に留め置かれます。逮捕されてから48時間以内に検察庁へ送致され、検察庁へ送致されてから24時間以内に勾留(こうりゅう)という手続が取られることが多いのが実情です。
勾留という手続が取られると、その手続が行なわれた日から更に10日間は身柄拘束が続きます。
したがって、一度逮捕されてしまうと、10日以上家に帰れなくなってしまう恐れがあります。
もっとも、このような道を歩まないケースもあります。
→ 詳しくはこちらをご覧ください。
- 勾留は、検察官が請求し、裁判官が検察官からの勾留請求を認めるという流れで行なわれます。
そこで、勾留請求前に弁護人を選任し、当該弁護人から勾留請求を行なう予定の検察官に対して勾留請求を行なわないよう働きかけることが考えられます。
また、勾留請求がされてしまった場合には、担当の裁判官に連絡を取り、検察官からの勾留請求を認めないよう働きかけることが考えられます。
- 勾留請求阻止は時間との戦いです。
勾留請求は、逮捕後72時間以内に検察官によって行なわれます。その勾留請求を防ぐためには、逮捕されてしまった人の家族に一定の協力を御願いしたり、逮捕されてしまった人の生活状況等についての資料を入手したりしなければならないことが多いのです。
逮捕後60時間経ってから依頼を受けた場合と、逮捕2時間後に依頼を受けた場合とでは、勾留請求阻止のために行なうことができる準備の量に差が生じることがあります。なるべく早期に弁護人を選任していただくことが望ましいと思います。
- そもそも勾留は、逮捕された人を自由に行動させておくと、その人が逃げてしまったり、犯罪の証拠を隠したり、壊したり、改変したりしてしまうおそれがある場合に、そのような事態を防ぐために行なわれます。
逆に、「この人には、そのような事情はありませんよ。」と検察官を説得できれば、勾留は請求されないことになります。
- 逃亡のおそれ、証拠隠滅等のおそれについてそれぞれ説明します。
いずれの場合も下記の事情はあくまで一例で、これに限定されるものではありませんが、下記のような事情が多ければ多いほど勾留請求を防げる可能性は高まると言えるでしょう。
① 逃亡のおそれについて
- 面倒を看てあげなければ困る家族(子どもなど)がいること
- 一緒に暮らしている家族がいて、必要なときには、裁判所や検察官へ本人を出頭させることを約束していること
- 本人が定職に就いていること
- 事案の内容や前科が無いことなどから、比較的軽い処分が見込まれること
② 証拠隠滅等のおそれについて
- 本人が被害者、目撃者の連絡先を知らないこと
- 既に被害者と示談が成立していること
- 既に捜査機関によって物的証拠が押収されている、検分が行なわれていること
- 勾留に対する準抗告という手続があります。
これは、裁判官の「勾留を認める」という判断が間違っているとして、別の裁判体に、勾留を認めた裁判官の判断が正しかったかどうか再考を求める手続です。
この手続で考慮される事情も、こちらで述べた事情と同様の事情です。
- 最高裁判所に対して特別抗告を行なうことはあり得ます。
ただし、申立てを行なうことができる理由は憲法違反と判例違反に限られています。
- 勾留の取消請求というものがあります。
この手続は、勾留の理由や勾留の必要がなくなったことを理由として、釈放を求めるものです。
勾留に対する準抗告、特別抗告はそれぞれ1度切りしか行えませんが、勾留の取消請求は、事情の変更があればその都度行なうことができます。
- 裁判官が「適当と認めるとき」に、一時的に勾留の執行を停止して、身柄の解放を認める措置です。
実務上は、逮捕された人自身が病気治療のため入院しなければいけなくなった場合や、逮捕された人の特に親しい親族が死亡して葬儀に出席する場合などに認められることがあります。
当該事情が終了すれば、再び身柄拘束を受けます。
- 3パターンあります。
① 正式な裁判にかけられないことが決まり、釈放される
② 勾留が更に延長される(最大10日間)
③ 正式な裁判にかけられることが決まったうえで、身柄拘束が続く
(法律上、被告人としての勾留という手続に切り替わります。)
- 検察官に対して勾留を延長しないように働きかけるという手段があり、検察官から延長の請求がされた場合には、当該延長請求を認めないよう、担当裁判官に働きかけることが考えられます。
- 勾留延長に対する準抗告を行なうことが考えられます。
準抗告を行なうことによって、たとえば当初は「10日間延長」とされていたものが、「5日間延長」といったように、延長の期間が短縮されることがあります。
この準抗告が認められなかった場合には、特別抗告を行なうことがあり得ます。
少年事件について
最終更新日:2022年04月06日- 一般的には20歳未満の者が当事者となる事件を言いますが、少年の年齢や、実際に罪を犯したのか等により、「犯罪少年」、「触法少年」、「ぐ犯少年」に区別されており、これらを対象とした事件のことを少年事件といいます。少年事件では、通常の刑事事件とは異なり、原則として家庭裁判所の審判を受けることになります。
- 2022年4月1日以降も、20歳未満の者に対しては少年法が適用されます。
ただし、同日以降、18歳以上の少年は「特定少年」というカテゴリーで扱われることになり、
処分の内容 や、
検察官に事件が送致される場合の要件、
実名報道の可否
など、17歳以下の少年とは異なる扱いがされる場合があります。
- 罪を犯した14歳以上20歳未満の者をいいます。
- 実質的に罪を犯したときに14歳未満であったため、刑法上罪を犯したことにならない者をいいます。
- 20歳未満で、保護者の正当な監督に従わないなどの不良行為があり、その性格や環境からみて、将来、罪を犯すおそれのある者をいいます。
ただし、2022年4月1日以降、18歳以上の少年は、将来、罪を犯したり刑罰法令に触れる行為をしたりするおそれがあっても、少年審判に付されることがなくなりました(少年法65条1項)。
- 少年でも、逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがある場合には、成人と同じように逮捕・勾留される場合があります。一般の刑事事件の逮捕・勾留と同様で、黙秘権もあり、弁護人を選任することもできます。
- 少年事件は、警察官や検察官により、原則として全ての事件が家庭裁判所に送られます(これを「全件送致主義」といいます。)。家庭裁判所に事件が送られると、家庭裁判所は必要に応じ、少年を鑑別所に収容する旨の決定(観護措置)をします。
- 少年鑑別所では、少年の処分を適切に決めるため、少年の心身の状況の検査等が行われます。又、家庭裁判所の裁判官が調査命令を出し、それを受けた家庭裁判所調査官による調査が行われます。ここでの鑑別結果や調査官の調査報告書は、裁判官が処分を決める上で参考にします。
観護措置がとられると、少年は2週間から最大で8週間の期間、少年鑑別所に収容され、その期間内に、処分を決めるための少年審判が開かれます。
- 家庭裁判所調査官とは、心理学、社会学、教育学などの知識を有する家庭裁判所の職員です。
家庭裁判所調査官は、少年や保護者、関係者を家庭裁判所に呼び、又は調査官自身が家や学校に出向いて、少年の性格や生活環境などを調べます。調査官は、様々な方法で調査、助言等を行い、少年の抱える問題や非行の原因を明らかにして、調査の結果及び処分についての調査官の意見を記載した報告書を作成し、裁判官に提出します。
- 審判には、原則として少年と保護者が出席します。また、家庭裁判所調査官、付添人、学校の先生、雇用主などが出席することもあります。一定の重大な事件で事実に争いがある場合には、検察官が出席することもあります。通常の刑事事件とは異なり、少年審判は非公開ですが、被害者やその遺族に傍聴が認められることもあります。
- 弁護士は、家庭裁判所送致前は弁護人として、家庭裁判所送致後の少年事件の手続においては付添人として少年に関わることになります。家庭裁判所送致前の弁護人が引き続き付添人になることも可能です。
付添人は、少年と面会し、少年と話をする中で少年に自らの行為に向き合い、反省を促します。また、被害者がいる場合には被害者対応を行ったり、裁判官、調査官、両親などと一緒に、今後少年が更生していくための方法を考え環境調整を行ったりするのが主な役目です。
- 軽微な事件の場合には、調査のみが行われ審判が開かれないことがあります。これを「審判不開始」といいます。
- 少年審判の結果、付される処分としては、①不処分、②保護観察、③少年院送致、④児童自立支援施設等送致、⑤検察官送致、⑥知事又は児童相談所長送致、⑦試験観察があります。
②から④までを合わせて「保護処分」といいます(少年法24条1項)。
- 家庭裁判所での調査、審判等の教育的働きかけにより、少年が十分に反省しており、再非行のおそれがないと認められた場合には、少年を処分しないこととされることがあります。不処分となると、その時点で身柄が解放されます。
- 少年が一定の監督の下、社会内での更生が可能であると判断されると、保護観察に付されます。保護観察に付されると、少年は決められた約束事(「遵守事項」といいます。)を守りながら家庭などで生活し、保護観察官や保護司と呼ばれる指導員から、生活や交友関係などについて定期的に指導を受けることになります。保護観察処分が下されると、その時点で身柄が解放されます。
- 少年に再非行のおそれが強く、社会内での更生が難しい場合には、少年院に収容して矯正教育を受けることになります。
少年院では、少年が再び非行を犯すことがないように、事件について反省を深めさせ、謝罪の気持ちを持つように促し、併せて規則正しい生活習慣を身に着けさせ、教科教育、職業指導など、全面的な指導を行います。
少年院送致となった場合、少年の状況に応じ、短期処遇であれば半年程度、通常は1年程度在院し、処遇を受けることになります。
- 特定少年に対する保護処分は、次の3種類に限定されています(少年法64条)。
-
① 6か月の保護観察処分
-
② 2年間の保護観察処分
-
※ この処分をする場合、遵守事項違反により、将来的に保護観察が取り消されて少年院に収容される場合の収容期間があらかじめ定められます
-
③ 3年以下の収容期間を定めた少年院送致
- 児童自立支援施設とは、不良行為をし、又はそのおそれのある児童や、家庭環境その他の環境上の理由で生活指導等を必要とする児童を入所させ、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援する施設です。比較的低年齢の少年につき、少年院より開放的な施設での生活指導が相当であると判断された場合には、児童自立支援施設等に送致され、自立を促すこととなります。少年は、施設の中で義務教育を受けることができます。
- 少年事件の場合、警察・検察による捜査の後、事件は家庭裁判所に送致されます。
しかし、家庭裁判所が、少年の非行歴や心身の成熟度、性格や事件の内容等を考慮して、保護処分ではなく刑事処分が妥当であると判断した場合には、家庭裁判所に送られてきた事件を、検察官へ送り返すことがあります。
一度家庭裁判所へ送られた事件が、検察官へ送り返される手続のことを「検察官送致」や「逆送」といいます。
逆送された事件の少年は、検察官によって起訴され(刑事裁判の被告人となります)、刑事裁判で有罪判決を受けた場合、刑罰が科されることになります。
- 2022年4月1日以降は、少年の年齢によって、逆送となる要件が異なります。
(1)17歳以下の少年の場合
-
① 故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合で、行為時に少年が16歳以上であった場合には、原則逆送となります(少年法20条2項)
-
② ①以外の場合でも、死刑、懲役又は禁錮に当たる罪を犯し、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分が相当であると裁判官が認めたときは、逆送となります(少年法20条1項)
(2)18歳以上の少年の場合
-
① 16歳以上のときに犯した故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合には、原則逆送となります。
(同法62条2項1号・17歳以下の少年と同様です)
-
② 18歳以上のときに、死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁固に当たる罪を犯した場合も、原則逆送となります。
(同条2項2号・原則逆送となる対象事件が、17歳以下の少年に比べて大幅に拡大されました)
-
③ ①、②以外の場合でも、調査の結果、その罪質及び情状に照らして刑事処分が相当であると裁判官が認めたときは、逆送となります。
(同法62条1項・17歳以下の少年の場合には、「死刑、懲役又は禁錮に当たる罪の事件」という限定が付されていましたが、18歳以上の少年の場合には、逆送の対象となる事件について制限が無くなりました)
-
④ 少年審判までに20歳に達した場合も逆送となります(同法19条2項)
- 家庭環境などから、少年を児童福祉機関の指導に委ねるのが相当と認められた場合は、知事又は児童相談所長に事件を送致します。
- 少年に対する処分を直ちに決めることが困難な場合に、中間的な処分として、少年を一定期間、家庭裁判所の調査官の観察に付するものです。
試験観察期間が満了するときに、再度審判が開かれ、改めて裁判官が処分を下すことになります。
- 18歳以上のときに犯した罪によって逆送され、起訴された場合(刑事裁判になった場合のことです。ただし、略式請求となった場合は除きます)には、実名報道や顔写真の掲載、報道などが可能となります(少年法68条、61条)。
- 少年や保護者に対し、現在の状況や今後の見通しを教えることができ、不安を取り除くことができます。
また、早い段階で弁護士をつけることで、早期の身柄解放を実現することができることがあります。そして、少年審判で最終的に処分を決めるのは裁判官であるため、付添人が関与して、事件を起こすに至った背景や少年の性格を把握し、必要な環境改善に取り組むことによって、裁判所に対して更生可能な状況であること等の働きかけをすることができます。
裁判員裁判について
最終更新日:2016年05月13日- 言わずもがなの回答ですが、裁判員裁判では、市民から選ばれた裁判員が、被告人を裁く立場で刑事裁判に参加するということです。
静岡市、藤枝市、島田市などが含まれる静岡地方裁判所本庁の裁判員裁判では、裁判官3名と市民の中から選ばれた裁判員6名によって、裁判体が構成されています。
- 裁判に国民の視点、感覚が反映されることによって、司法に対する国民の理解が増進され、司法に対する信頼が向上すると考えられたため、制度化されました。
- 裁判員は、衆議院議員の選挙権を有する者の中から選ばれます(法13条)。
- 職業による制限とその他の制限があります。
- 警察官などの司法警察職員、裁判所の職員、法務省の職員、自衛官などが挙げられます(法15条1項参照)。
以下の1から5などの制限があり、これ以外にも法律上裁判員に選ばれない事由が規定されています(法14条、17条参照)。
- 義務教育を終了していない者
ただし、義務教育を終了した者と同等以上の学識を有する者は除く。
たとえば、海外で日本の中学校相当の学校を卒業している人は、「義務教育を終了した者と同等以上の学識を有する者」に該当します。 - 禁固以上の刑に処せられた者
- 心身の故障のために職務の遂行に著しい支障がある者
- 禁固以上の刑に当たる罪につき起訴され、その被告事件の終結に至らない者
たとえば、交通事故で人に怪我をさせてしまい、裁判にかけられているが、まだ判決が下されていない人などが該当します。
☆「起訴」の意味については、こちらをご参照ください。 - 問題となっている事件について一定の関係を持つ者
被告人又は被害者の親族、親族であった者、同居人、被用者などの人は、その裁判員裁判の裁判員にはなれません。
- 義務教育を終了していない者
以下の①から⑧などの場合があり、これ以外にも法律上裁判員を辞退することができる事由が規定されています(法16条参照)。
- 70歳以上の者
- 地方公共団体の議会の議員
- 高校、大学、専門学校に常時通学を要する課程に在学している者
- 過去5年以内に裁判員、補充裁判員の職にあった者
- 重い疾病、傷害により裁判所に出頭することが困難な者
- 介護、養育が行われなければ日常生活を営むのに支障がある同居の親族がいて、その者の介護又は養育を行う必要がある者
- 従事する事業における用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがある者
- 父母の葬式への出席その他の社会生活上の重要な用務であって他の期日に行うことができないものがあること
- 『従事する事業における用務であって自らがこれを処理しなければ当該事業に著しい損害が生じるおそれがある者』に該当すれば辞退できる可能性があります。
該当するか否かは、ケースバイケースの判断になります。
- 裁判員には、最高裁判所の規則で定められた旅費、日当及び宿泊費が支給されます。
日当は1日あたり1万円以内の中で裁判所が定めた金額とされています。
- 労働者が裁判員裁判に参加するために休暇をとることなどを理由に、使用者が不利益な取り扱いをすることは、法律上明確に禁止されています(法100条)。
以下のような流れです。
- 裁判所は毎年9月1日までに、次の年に必要な裁判員候補者の人数を市町村の選挙管理委員会に通知します。
- 1の通知を受けた選挙管理委員会は、選挙人名簿の中から、必要候補者人数をくじで選びます。
10月15日までに、裁判員候補者予定者名簿を1の裁判所に送付します。 - 2の送付を受けた裁判所は、裁判員候補者名簿を作成します。
- 3の裁判員候補者名簿に記載された人に対して、名簿に記載された旨の通知が発送されます。
この通知が届くことによって、裁判員の候補者の名簿に登録されたことを知ることができます。 - 裁判員裁判の対象となる事件が起き、裁判の初日の日程が決まった段階で、裁判所から、裁判員の候補者に対して、裁判員候補者の中から裁判員を選ぶ手続へ出席するよう呼出状が発送されます。
呼出状が届くことによって、特定の事件について、裁判員に選ばれる可能性があることが分かります。逆に、名簿に記載された旨の通知(4)があっても、呼出状(5)が来ない限り裁判員に選任されることはありません。 - 特定の事件について、当該事件を担当する裁判官、検察官、弁護人が出席して裁判員を選任します。この手続は非公開で行われます。
この手続又はこの手続に先立って、
Q裁判員に選ばれない事由としては、どのようなものがありますか
Q裁判員に選ばれない職業には、どの様な職業がありますか
Q裁判員に選ばれないその他の制限には、どのようなものがありますか
Q裁判員を辞退できる場合があると聞いたのですが
でお話しした裁判員になれない事由や辞退事由の有無などについて質問がありますので、該当する事由がある方は、この機会に申し出てください。
裁判員になれない事由や辞退する事由のある人などを候補者から除いたうえで、最終的に、くじで裁判員を選任します。
- 裁判所は毎年9月1日までに、次の年に必要な裁判員候補者の人数を市町村の選挙管理委員会に通知します。
裁判員には4つの義務があります。
- 法令に従い公平誠実に職務を行う義務
- 評議の秘密、職務上知り得た秘密を漏らしてはいけない義務
- 裁判の公正さに対する信頼を損なうおそれのある行為をしてはいけない義務
- 品位を害する行為をしてはいけない義務
3つの役割があります。
- 事実認定
裁判員は、裁判官とともに、参加している刑事裁判で問題になっている行為や事実があったか、無かったかという認定をします。 - 法令の適用
認定した事実に対して法令を適用します。
認められた犯罪行為が何罪に当たるのか、認められた事実を基に正当防衛が認められるのか、というような判断です。 - 刑の量定
犯罪行為があり、正当防衛などの事情がなく、有罪であると認定した場合には、その犯罪行為に対して、どの程度の刑罰を科するべきかを裁判官とともに決定します。
- 事実認定
- こちらの役割を果たすのに必要な範囲で可能とされています。
大きく分けて次の3種類あります。
- 法令の解釈に係る判断
たとえば、正当防衛は、刑法第36条1項に「急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない」と規定されています。
「急迫不正の侵害」って何だろう?
その意味するところ、解釈は、裁判官が行うことです。 - 訴訟手続に関する判断
裁判をどのように進めていくかなどについては、裁判官が判断します。 - その他裁判員の関与する判断以外の判断
- 法令の解釈に係る判断
- 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件
- 死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪のうち故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件
具体的には、殺人、傷害致死、現住建造物放火、強盗致傷などの事件が該当します。
- 原則として、できません。
裁判員裁判の対象事件であるにも関わらず、裁判官による裁判が行なわれるのは、極めて例外的な場合に限られています。
- 強盗致傷事件として逮捕され、その後、裁判にかけられることが決まった場合であっても、被害者のお怪我の程度や示談の状況などによっては、強盗致傷罪としてではなく、「窃盗罪と傷害罪」又は「窃盗罪と暴行罪」として裁判にかけられる可能性があります。
これらの場合、窃盗罪、傷害罪、暴行罪のいずれも裁判員裁判の対象となる事件ではありませんので、裁判員裁判にはなりません。
- 裁判員裁判では、裁判が始まる前に、必ず「公判前整理手続(こうはんぜんせいりてつづき)」という手続に付されます。
- 何が争いになっているのか(争点)について、検察官と弁護人が主張を提示することによって、争点を浮き彫りにします。そして、その争点が裁判で明らかになるためには、どのような審理を行なうのが適切かという計画を立てます。
大掴みに言うと、公判前整理手続とは、このような手続を言います。
- 公判前整理手続を行なわない裁判では、数ある証拠の中から、検察官が、被告人が有罪であることを証明するための証拠を選抜して、裁判官に提出します。
しかし、検察官が未だ明らかにしていない証拠の中には、検察官が提出している証拠の信用性を減少させるような証拠もあるかもしれません。また、検察官が提出していない証拠の中には、弁護側の主張を基礎付けるような証拠がある可能性もあります。
たとえば、殺人事件の裁判を想像してみましょう。
検察官が既に提出している目撃者の供述を記録した書類には、「被告人がナイフでAさんを刺したのを見た」と書かれているのに、検察官が提出していない証拠の中には、目撃者が「Aさんをナイフで刺した人物が被告人だったのか、どうかよく見えなかった」と言っていたと記載されている書類があるかもしれません。
また、被告人が犯行時刻、犯行場所とは別の場所にいた様子を目撃したとする第三者の話が記録された書類があるかもしれません。
公判前整理手続では、弁護側から検察官に対して、検察官が提出している証拠の信用性を減少させるような証拠、弁護側の主張を支えるような証拠があるなら出しなさい、と言える手続があります。
検察官の手持ち証拠を、被告人にとって有利に使うことができるかもしれない、という点が被告人にとって公判前整理手続を行なう利点ではないでしょうか。
- 公判前整理手続は、起訴されてから第1回目の裁判が開かれるまでの間に行なわれます。そのため、公判前整理手続を行なう分、裁判の開始日が先に延び、留置場や拘置所に入っている期間が長くなります。
身柄拘束の長期化を防ぐためには、裁判所に対して「保釈」を求める必要があります。
- 可能です。
公判前整理手続を行なうと、身体拘束の期間が延びる可能性が高いため、裁判を受ける被告人とよく相談をして決める必要があると思います。
個人的には、重要な事実の有無が争いになる刑事裁判では、公判前整理手続を積極的に活用したいと思っており、これまでに、恐喝や覚せい剤の自己使用事件といった裁判員裁判の対象にならない事件でも、公判前整理手続を行ないました。
- まず、審理する時間と審理を行なう日の間隔が違います。
裁判員裁判では、一旦裁判が始まると、弁護人、検察官が最終意見を言うまで、連日裁判が開かれることが多いのが実情です。また、審理に要する時間も、裁判が開かれる日は、ほぼ午前中から夕方まで1日中裁判が続けられることが多いのが実情です。
このような審理日の間隔、審理時間は、有罪、無罪に争いがある事件だけではなく、被告人が罪を認めている、いわゆる自白事件でも変わることはありません。
静岡市、島田市、藤枝市、焼津市などが含まれる静岡地方裁判所本庁に関して、裁判官裁判の自白事件であれば、通常1時間ほどの裁判が開かれて、1週間後に判決といった場合が多いのが実情です。
裁判員裁判では、審理に要する時間や審理の期間が、裁判官裁判とは随分異なります。
- 裁判官裁判では、被害者、目撃者、被告人などの話は、予め警察官や検察官が書類化し、その書類を裁判官が読むことによって、事実を把握するという方法が取られることが多いと思います。
他方で、裁判員裁判では、被害者、目撃者、被告人などに、法廷の場で、裁判員に向けて説明や話をしてもらい、その場で裁判員に、話の内容や説明の内容を感じ取ってもらうという形式が重視されています。
書類を読むのではなく、直接話をしてもらう、という形式を取るため、裁判官裁判に比べて審理時間も長くなります。
- 裁判員裁判の場合には、普段法律を専門分野として扱っていない市民の皆さんが参加しますので、いかに弁護側の主張を裁判員に理解してもらうか、いかに分かりやすく伝えられるかという技術が求められると思います。
また、裁判員の皆様に弁護側の主張を理解してもらうため、裁判員裁判を行なうためには、裁判官裁判に比べて、その何倍もの準備が必要となります。
裁判員裁判は、マンパワーが必要な刑事裁判と言えます。
- 所属弁護士13名のうち10名が裁判員裁判経験者です。(2015年1月末日現在)
静岡法律事務所では、事務所に所属している弁護士が裁判員裁判を担当することになった場合、事務所の中の弁護士同士でコンビを組み、2人体制で綿密な打ち合せを重ねながら事件に取り組むという仕組みができています。
大切な人の未来を決める裁判員裁判は、静岡法律事務所の弁護士にお任せ下さい。
その他の刑事事件、交通事故の示談交渉についても、随時相談を受け付けております。
毎週水曜日の18時から、毎週土曜日及び日曜日の13時30分から無料法律相談会を開催しております(各相談日前日の午後5時までに要予約制)。
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顧問契約について
最終更新日:2016年01月25日事業継承について
最終更新日:2017年01月27日- 日本の企業の約99%を占めるといわれている中小企業のうち、半数以上の経営者が高齢化を迎えています。ところが、多くの会社が後継者を決定していないため、後継者難で廃業するケースがみられ、今後も増加すると考えられています。
日本経済を支える中小企業やその雇用の維持の観点から、事業承継問題に対する対策が必要となっています。
- いいえ、そんなことはありません。事業承継は、早い段階から計画的に行うことが重要です。経営者が50代であれば、今から計画を立てるべきです。
事業承継は、後継者を見つけるだけではありません。決めた後継者を、次の経営者として育てることも必要で、その期間は5年から10年と言われています。
- 大きく区分すると、次の3つを承継させます。①経営者としての地位(代表取締役の地位など)、②事業用の資産(自社株式、不動産、運転資金など)、③無形の経営資源(経営理念、経営者の経験・知識・信用・ノウハウ、知的財産など)。
②事業用資産については、会社名義になっているものは承継させる必要はありませんが、中小企業の多くでは、経営者の個人名義になっているケースが多く、そのような事業資産は承継させる必要があります。
①②③の中で最も重要なのは③無形経営資源の承継です。中小企業の強みの源泉は、目に見える財産ではなく、目に見えない経営資源です。この資源こそが「経営」といっても過言ではありません。現経営者に集中しているこの経営資源を、確実に後継者に承継することが重要です。
- ます、第一段階として、会社の現状把握をします。会社の財務関係や株式関係、経営者個人名義となっている事業用財産などについて、現状を丁寧に把握していきます。
次に、第二段階として、後継者を選定し、決定します。後継者が誰かによって、その後の承継方法が決まりますので、承継方法を見据えながら後継者を決めていくことになります。
そして、第三段階として、事業承継計画を策定します。事業承継の時期や対策を盛り込んだ、中長期の経営計画書を作成します。
- 譲渡すること自体は問題ありません。生前贈与や遺言を活用して行えます。
生前贈与や遺言による無償譲渡は、後継者以外の相続人がいる場合、その遺留分を侵害し、相続開始後に遺留分減殺請求される可能性があります。その場合、自社株式や事業用財産が相続人間で分散してしまいますから、他の相続人の遺留分に配慮した計画を立てることが重要です。また、贈与税や相続税も課税されるので、対策を立てて取り組む必要があります。
遺留分について
- 後継者にそれだけの資金が必要です。資金が不足する場合には、後継者の経営能力や事業の将来性に見込みがあれば、投資ファンドや金融機関から融資を受けられる可能性がありますから、自社株式等の価格算定、資金調達の見込みを十分に検討し、計画的に進める必要があります。資金調達が不十分となる場合には、自社株式等を現経営者に残すことも可能です。
なお、対価が廉価であると、遺留分による制約や贈与税の課税が生じる可能性がありますから、注意してください。
- 承継円滑化法は、資本金の額等や従業員数などの一定の要件をみたす中小企業の事業承継について、①遺留分に関する民法の特例、②相続税・贈与税の特例、③金融支援制度を設けています。
①により、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分権利者全員と合意することにより、承継した財産について、遺留分算定の基礎から除外することや、遺留分算定における評価額をあらかじめ固定することができます。なお、合意内容については、家庭裁判所の許可を受けることも必要です。
②により、一定の要件をみたしている先代経営者・後継者・会社について経済産業大臣の認定を受けた株式の相続等は、その後の5年間の事業の継続を要件として、後継者の相続税等の納税が猶予されます。その後、後継者が死亡したり、会社が倒産したりするなど、一定の事情の下で、納税が免除されることもあります。
③により、一定の要件をみたすとして経済産業大臣の認定を受けた場合、遺留分減殺請求や相続税等への対応資金、株式等の買取り資金、一定期間の運転資金などの資金調達への支援が受けられます。
なお、①と②は、かつては相続人に対する承継(親族内承継)に限られていましたが、①については平成28年4月1日より親族以外の後継者でも利用でき、②については平成27年1月1日以後の親族以外の後継者に対する遺贈・贈与にも適用されるようになりました。
- 会社法によれば、株式ごとに異なる内容の株式(種類株式)とすることができます。種類株式の制度を活用して、事業承継への対策を組み立てることが可能です。
例えば、株主総会の議決権数を2つ以上付与するなどの属人的株式、株主総会における議決権を制限する議決権制限株式、株主総会における特定の議決事項について拒否権を有する拒否権付株式などが考えられます。
これらを活用することにより、後継者には少数の株式譲渡によっても議決権を集中させつつ、相続人等にも株式を取得させるなどが可能で、遺留分や贈与税等や資金調達への対策となります。
種類株式の活用のほか、株主が死亡して株式を相続取得した者に対し、会社が株式の売渡請求を行って強制的に買い取るという売渡請求の制度の活用も有効です。売渡請求制度によって、順次に後継者へ株式を集中させることが可能です。
- 近年では、M&Aを利用した事業承継(事業引継ぎ)も増加しています。ただし、適切な第三者を探すのは難しいことが多いです。また、見つかったとしても、第三者であるからこそ、契約締結に至るまでの秘密保持や価格交渉などは、特に慎重に進めていく必要があります。
そこで、国は、事業引継ぎへの支援事業として、全国各地に事業引継ぎ支援センター及び相談窓口を設置しています。引継ぎ先企業とのマッチングや、契約締結に至るまでのデューデリジェンスなど、事業引継ぎの支援が受けられますので活用を検討してください。
- 中小企業の場合、代表者のほとんどが会社名義の債務について、連帯保証をしています。しかし、事業承継後も保証人の地位が残ってしまうのでは、安心した生活を送ることができません。したがって、事業承継により代表者が変わる場合、代表者の個人保証等を外す方向で後継者や金融機関と交渉し、連帯保証人の変更等を行うことになります。ただし、実際には、後継者が親族や従業員等の場合には、金融機関が連帯保証人の変更に応じてくれる可能性は低いと考えられます。
その他の取扱分野
医療過誤事件について
最終更新日:2016年05月23日- 医療過誤事件とは、医師または歯科医師及び医療補助者の患者に対する診断、検査、注射、治療、手術、麻酔、管理等の医療行為の過失による被害を理由とする損害賠償請求等の事件をいいます。大まかに言うと、医療ミスによって被害を被った場合の損害賠償請求等の事件をいいます。
- 医師等の医療専門家の助力が欠かせないという点が、特徴として挙げられます。
例えば、病院で治療を受けていたら容体が急変し、亡くなってしまったという場合、遺族は、病院から事情説明を受けることになります。ここで病院から、医療ミスがあったために亡くなったという説明があれば、あとは損害賠償の金額だけの問題となります。
しかし、病院から医療ミスはなかったとの説明があった場合、遺族は、病院の説明が本当なのかどうか、判断することができないのが普通です。弁護士といえども医療に関しては素人ですから、この点は同様です。
そのため、病院に医療ミスがあったのか否か、医療ミスがあったとしても、医療ミスによって患者が亡くなったのか否か等について、医師等の医療専門家の意見を聞くことがどうしても必要となります。この点が、医療過誤事件が通常の訴訟事件と大きく異なる点です。
なお、医療過誤訴訟を行う場合、費用がかかることも頭に入れておいた方がいいと思います。鑑定費用、意見書作成費用、印紙代、弁護士費用等、結構費用がかかります。
- 診療録等の入手
病院に医療ミスがあったかどうかを判断するためには、診療録・検査記録・画像などの資料の入手が不可欠です。これらの資料の入手方法としては、病院から開示を受けて入手する方法もありますが、病院による診療録等の改ざんのおそれがある場合には、証拠保全の申立て(民事訴訟法234条以下)を行うことが必要となります。 - 医学文献の調査・協力医から医学的知見を得る
上記のように、医療ミスがあったかどうかの判断については、医学的知識が必要となりますから、自ら医学文献を調査すると共に、患者側の立場に立って医学的見地からアドヴァイスをして下さる協力医と面談してお話を聞くことになります。 - 病院と示談交渉
協力医との面談の結果、病院に過失があり、結果との間に因果関係があると考えられる場合、損害額を計算し、病院側に損害賠償請求を行います。病院側が交渉に応ずれば、示談交渉を行うこととなります。 - 調停・訴訟
裁判外の損害賠償請求に対し、病院が回答しなかったり、示談交渉に応じない場合、次の手段として、調停・訴訟等を行うことになります。調停とは裁判所で話し合いを行う手続きです。これに対して、訴訟とは請求が認められるかを裁判官が証拠に基づいて判断する手続きです。どの手段に拠るかは、過失・因果関係の立証の難易等の観点から判断します。
- 診療録等の入手
犯罪被害者の支援について
最終更新日:2016年05月25日事件に遭われた直後は、事件の内容によっては、社会的な関心を集めることがあります。そのような場合、マスコミなどが被害者の方のご自宅に押しかけてくることもあり、そのこと自体が大きなストレスとなる可能性があります。
弁護士にご依頼いただければ、弁護士がマスコミとの連絡窓口となりますので、マスコミからの取材攻勢を回避することができます。
- 犯人を捕まえてもらったり、犯人を処罰して欲しいという意向を持っている場合には、警察に対して被害届を提出したり、告訴状・告発状を提出したりすることが考えられます。
弁護士は、日常刑事裁判に携わることが多いため、依頼を受けて各種書類の作成を行ったり、届出の手助けをしたりすることができます。
- 事件が捜査中の場合、犯罪の被害に遭われた方は、警察から、事情聴取をさせて欲しいという申し出を受ける場合があります。
弁護士は、被害者の方と、事情聴取の前にどういった内容を話すかという打ち合せを行ったり、その事情聴取に同行したりすることができます。
また、被害者側から積極的に、捜査機関に対し、加害者の方の住所・氏名等の捜査情報の提供を申し込むこともできます。
- 加害者側から示談交渉の申し込みがあった場合、弁護士は、被害者側の交渉窓口になることができます。
弁護士は、示談をした場合の効果などを被害者の方に説明し、示談をした場合の利害得失を考慮しながら、被害者の方と示談をするか否かについて共に検討します。また、弁護士は、示談をする場合であっても、内容や金額について適切なものとなっているかどうかを確認し、被害者の方の意向が最大限反映されるよう加害者側と交渉します。
- 捜査の結果、不起訴処分となってしまった場合には、検察審査会へ審査申立を行うことができます。検察審査会で審査をしてもらった結果、加害者が起訴(刑事裁判にかける)されることもあります。
弁護士に依頼していただくことで、弁護士が必要書類を作成するなどし、検察審査会へスムーズに審査申立を行うことができます。
また、不起訴となった事件について、検察庁に保管されている記録を開示するよう、検察庁に請求することができます(但し、開示には制限があります)。
- 加害者が刑事裁判にかけられた場合、その裁判の法廷の場で、被害者を特定するような事項を明らかにしないよう求めることができます(但し一部の犯罪に限ります)。弁護士に依頼していただくことで、弁護士が裁判所と事前に打ち合せを行い、裁判の当日、被害者の情報が法廷の場で明かされることのないよう、段取りを組みます。
- 弁護士から裁判所に申し入れをすることで、被害者の方の傍聴席を確保することができます。また、ご希望があれば、被害者の方が裁判を傍聴される際、弁護士が付添うこともできます。
- 被害者の方は、被害に関する心情等について、法廷で意見を述べることができます。弁護士にご依頼いただければ、弁護士が裁判所や検察庁と打ち合せをし、スムーズにその手続の段取りを組みます。
また、法廷の場で何を話すか、どのように話すかということについて、事前に弁護士と打ち合せをするなど本番に備えることができます。
- 被害者側としては、被害者参加の申出をしたり、損害賠償命令の申出をしたりすることができます。
被害者参加をした場合、証人尋問・被告人質問・法律の適用に関する意見陳述(被害者による論告)を行うことができます。
弁護士にご依頼いただければ、被害者参加や意見陳述のために必要となる書類を作成したり、段取りを組んだり、当日行われることについて打ち合せや準備を行うことができます。
- 刑事裁判当日、被害者の方は、証人として尋問を受けたり、あるいは意見陳述を行うことがあります。弁護士はこれらの手続において被害者の方に付き添うことができます。
また、弁護士を依頼していただければ、どのような意見を言うか、尋問でどのような答えをするかについて事前に打ち合せをすることができ、裁判記録を閲覧したり、コピーしたりすることもできます。
- 加害者が少年の場合、刑事裁判ではなく少年審判が開かれます。
少年審判の性質からくる制限はありますが、記録を閲覧したり、コピーを請求することはできます。また、心情に関する意見陳述を行うこともできます。
さらに、審判の状況について説明を求めたり、少年の住所・氏名や審判の結果を被害者側に通知するよう裁判所に申し出をを行うことができます。
少年審判は原則非公開であり、一部の重大事件については傍聴が可能です。弁護士に依頼することで、傍聴の段取りについて裁判所との連絡がスムーズに行えます。
- 損害賠償命令の申立を行っていれば、刑事裁判手続に関連して、被った損害について賠償を求める手続を行うことができます。
弁護士に依頼していただければ、弁護士が申立てに必要な書類を作成したり、手続を代行することができます。
- 加害者の処遇状況に関する通知をするよう申し出ることができます。
この申し出も弁護士が被害者本人を代理して行うことができます。
- 民事の事件として、加害者に対し、損害賠償を求めることが考えられます。
そのための手段としては、仲裁制度、調停制度、民事訴訟制度等各種の紛争解決制度を利用することが考えられます。弁護士は、被害者本人を代理してこれらの制度を行うことができます。
弁護士は専門家の観点から、被害者にとって適切な解決ができるよう、依頼者と相談をしながら手続を進めることができます。
- 生活支援とし、犯罪被害者を支援している各種機関と連絡を取り、適切な支援を受けられるようにできます。
その他にも、犯罪被害者等給付金の請求手続の支援もできます。
不動産賃貸借≪貸主編≫について
最終更新日:2017年08月07日- 貸主には、賃貸借契約で定められたとおりに、目的物を引き渡す義務、目的物を使用させる義務、目的物の破損部分を修繕する義務などが発生します。
- まず、借主に事情を伝えて、賃料の増額について交渉することが考えられます。この交渉も、弁護士に依頼することができます。
借主との交渉を行っても賃料の増額の合意ができない場合、裁判所の手続の利用を検討することになります。
賃料の増額を実現するための裁判所の手続について
- 賃料の増額の場合は、法律上、まず、簡易裁判所に対して、賃料増額の調停を申し立てることになっています(「調停前置主義」といいます)。
調停は、調停委員会(裁判官1名及び民間の調停委員2名から構成されます)を交えて、借主と話し合い、紛争の解決を図る手続です。調停は、1回で終わることはあまりなく、合意が成立する可能性がある場合は、何回か開かれます。通常、期日は、1ヶ月に1回程度開かれます。
調停で賃料の増額について合意できれば、調停が成立します。
他方、調停で賃料の増額について合意できない場合、調停は不成立になります。
調停が不成立となった場合、地方裁判所に賃料の増額を求める訴訟を提起することができます。そして、この訴訟において、賃料を増額する旨の判決が出され、それが確定すれば、賃料が増額されます。
- まず、借主の同意を得て、建物の賃貸借契約を終了させる方法があります。
次に、借主の同意が得られない場合は、①契約期間の定めがある建物の賃貸借契約の場合は、契約期間満了の1年前から6か月前までの間に、借主に対して契約の更新しない旨の通知をする方法(この方法を「更新拒絶」といいます。)、②契約期間の定めがない建物の賃貸借契約の場合は、借主に対して、解約の申し入れを行う方法があります。解約の申し入れの場合は、解約を申し入れた日から6か月経過後に賃貸借契約が終了します。
ただし、更新拒絶の場合も、解約申し入れの場合も、正当事由が必要とされています(正当事由について)。この正当事由がないと更新拒絶も解約も認められません。
また、借主側に賃貸借契約上の義務の不履行がある場合には、賃貸借契約を解除できる場合があります(賃貸借契約の解除について)。
- 正当事由の有無は、①建物の貸主及び借主がそれぞれ当該建物の使用を必要とする事情、②建物の賃貸借契約に関するこれまでの経過、③建物の利用状況及び建物の現況、④建物の貸主が建物の明渡しの条件として立退料の支払いを申し出た場合にはその申し出といった要素を総合的に考慮して判断されます。
例えば、①貸主が当該建物の使用を必要とする事情として、貸主自身が建物に住まざるを得なくなったなどの事情が挙げられ、借主が当該建物の使用を必要とする事情としては、当該建物において生活しないと支障が生ずるなどの事情が挙げられます。
そして、②建物の賃貸借契約に関するこれまでの経過に関する貸主側に有利な事情としては、借主がこれまで度々賃料の支払いを遅延してきたなどの事情が挙げられ、借主側に有利な事情としては、これまで賃料や更新料等を誠実に支払ってきたなどの事情が挙げられます。
また、③建物の利用状況及び建物の現況に関する貸主側に有利な事情としては、建物が老朽化したために、全面的に建て替えの必要性が生じているなどの事情が挙げられ、借主側に有利な事情として、借主が建物において営業を行っている、借主が貸主の許可を得て最近改築工事を行ったばかりであるなどの事情が挙げられます。
最後に、④建物の貸主が建物の明渡しの条件として立退料の支払いの申し出た場合の例としては、貸主が、借主に対し、建物を明け渡してくれるのであれば、転居に要する費用や転居のために営業ができない期間の売上げの全部または一部を補填するなどの申し出を行った場合が挙げられます。
- まず、借主に賃料の支払いを催促することが考えられます。借主に支払意思がある場合、賃料の支払条件について交渉することになります。この交渉も、弁護士に依頼することができます。
また、借主との交渉がまとまらない場合や借主との交渉が望めないような場合は、裁判所に賃料の支払いを求める訴訟を提起したり、支払督促の申立てをしたりすることが考えられます(支払督促について)。
もっとも、借主に資産や収入がない場合や借主が行方不明になっているような場合、訴訟によっても賃料を回収できない可能性がありますのでご注意ください。
- まず、借主に内容証明郵便等で、支払期限を定めて滞納している賃料の支払いを請求します。そして、支払期限内に賃料の支払いがないときは、賃貸借契約を解除し、借主に建物から退去してもらいます。
もし、以上の請求にもかかわらず、賃貸借契約解除後も借主が退去してくれない場合は、裁判所に建物の明渡しを求める訴訟を提起することになります。なお、同訴訟においては、借主が、信頼関係破壊の法理(信頼関係破壊の法理について)を主張し、解除が無効であると争ってくる可能性があります。
そして、建物の明渡しを命ずる判決が下されたにもかかわらず、借主が建物を明け渡さない場合、強制執行という裁判所の手続を利用して、借主を退去させることになります(強制執行について(リンクQ12))。
- 信頼関係破壊の法理とは、例えば、借主が賃料を1回遅延しただけで建物を明け渡さなければならなくなるのでは借主に酷であるために、貸主と借主の間の信頼関係を破壊しないような些細な義務違反では、賃貸借契約の解除を認めないという法理です。
そして、この信頼関係破壊の有無は、裁判官が、借主の従前の賃料の支払状況や建物の使用状況などを考慮して判断します。
例えば、賃料を滞納している期間が1年間のように相当長期に及んでいる場合には信頼関係が破壊されていると認められる傾向にありますし、賃料の滞納が1、2か月程度では信頼関係の破壊が認められない傾向にあります。もっとも、後者の場合であっても、毎晩楽器を大音量で鳴らしている場合のように近隣住民の生活妨害をしているなどの事情があれば、信頼関係が破壊されたと評価される可能性があります。
- 賃貸借契約書に「賃料等の支払いを2か月以上怠ったときは、何らの催告も要しないでただちに本契約を解除することができる」と書かれていたとしても、この記載だけを根拠に、賃料の支払いの催告をせずに契約を解除することはできません。
そもそも、賃貸借契約の解除には貸主と借主の間の信頼関係の破壊が認められる必要があります。借主が賃料を2か月滞納しているという事情のみでは、信頼関係の破壊が認められず、貸主からの契約解除が認められにくい傾向にあります(信頼関係の破壊について)。そのため、設例のケースでは、そもそも契約の解除自体が認められない可能性があります。
もっとも、2か月の賃料滞納に加えて、建物の使用状況等その他の事情を考慮して信頼関係の破壊が認められる可能性はあります。そして、建物の使用状況等があまりに酷いようなケースでは、賃料の支払いの催告をせずに契約を解除することが認められることもあります。
ただし、信頼関係の破壊の程度の判断は容易ではありません。そのため、念のため、契約を解除する前に賃料の支払いを催告しておいた方が安全です。
- 借主を退去させるためには、建物明渡しの裁判などの法的手続が必要です(建物明渡手続について)。
そのため、どんなに悪質な借主であったとしても、無断で鍵を取り替える、無断で荷物を搬出するなどの方法で、借主を退去させることは法律上、認められていません。このような行為を借主の同意を得ずに行った場合、借主から損害賠償請求を受けたり、住居侵入罪等で刑事告訴されたりする可能性があります。
- 賃貸借契約が終了している場合、借主に対して、『賃料』を請求することはできません。
しかし、賃貸借契約終了後も借主が建物の明け渡さない場合、貸主には、当該建物の利用が妨げられているという損害が発生していると考えられます。そのため、貸主は、借主に対して、建物の利用が妨げられているという損害の賠償金として、賃貸借契約時に定められていた賃料と同額のお金(「賃料相当損害金」といいます。)等を請求することができます。
- 建物の明渡しの強制執行の手続は、裁判所に強制執行手続の申立てをすることで開始します。この申立てにあたっては、強制執行の申立書や借主に建物の明渡しを命ずる判決(建物の明渡しを命ずる判決について)、申立手数料等が必要になります。
そして、強制執行の申立てを行うと、裁判所の執行官が、借主に対して、建物を明渡しするよう通告し、この通告にもかかわらず借主が退去しない場合には、執行官が当該建物に行き、借主やその家族等を立ち退かせ、建物の中の物を運び出します。そして、建物を貸主に引き渡してくれます。
この手続は、申立てから明渡しまで、少なくとも1か月程度要します。
不動産賃貸借≪借主編≫について
最終更新日:2017年08月08日- 「用法遵守義務」とは、賃貸借契約により定められた用法に従って、目的物を使用しなければならないという義務のことをいいます(民法616条、594条1項)。
例えば、賃貸借契約書に、増改築禁止や営利行為の禁止、ペットの飼育禁止などが記載されている場合、借主は、これらの禁止事項に違反しないようにしなければなりません。
- 「善管注意義務」とは、借主の能力や社会的地位などから考えて通常期待される注意をもって、目的物を保存しなければならないという義務のことです(民法400条)。
例えば、借りている建物の窓ガラスが割れてしまい、賃貸借契約書に「修繕は借主の責任で行う」などの記載がないとします。
窓ガラスが割れた原因が暴風等の天災による場合、借主は、貸主に対して、窓ガラスが天災のために割れた旨報告をすれば、善管注意義務の違反とはなりません。
しかしながら、窓ガラスが割れた原因が、借主が家具をぶつけてしまったなどの借主の不注意による場合、借主が窓ガラスの修繕を行わなければなりませんし、貸主にその旨報告しなければ、善管注意義務を尽くしたとは言えません。
- 建物の使用及び収益に必要な修繕は、原則として貸主の義務です(民法606条1項)。
例えば、建物に雨漏りが生じてしまった場合、雨漏りの修繕は建物を使用収益するにあたって必要ですので、原則として、貸主に雨漏りの修繕義務があります。そのため、借主は、貸主に対して、雨漏りを修繕するよう請求することができます。また、この場合、借主自身が雨漏りの修繕を行い、貸主に対して、修繕費用を請求することもできます(民法608条1項)。
ただし、以下の場合は、注意が必要です。
まず、賃貸借契約書に「建物の修繕は借主の責任で行う」等の記載がある場合、借主は、貸主に対して、雨漏りの修繕を請求することができず、借主自ら雨漏りを修繕しなければなりません。
また、借主に雨漏りが生じた原因がある場合も、貸主に雨漏りの修繕を求めることができず、借主自ら雨漏りを修繕しなければなりません。
- まず、貸主に事情を伝えて、賃料の減額について交渉することが考えられます。この交渉も、弁護士に依頼することができます。
貸主と交渉を行っても賃料の減額について合意ができない場合、裁判所の手続の利用を検討することになります(賃料の減額を実現するための裁判所の手続について)。
- 賃料の減額の場合は、法律上、まず、簡易裁判所に対して、賃料減額の調停を申し立てることになっています(「調停前置主義」といいます)。
調停は、調停委員会(裁判官1名及び民間の調停委員2名から構成されます)を交えて、借主との話し合い、紛争の解決を図る手続です。調停は、1回で終わることは余りなく、合意が成立する可能性がある場合は、何回か開かれます。通常、期日は、1か月に1回程度開かれます。
調停で賃料の減額について合意ができれば、調停が成立します。
他方、調停で賃料の減額について合意できない場合、調停は不成立になります。
調停が不成立となった場合、地方裁判所に賃料の減額を求める訴訟を提起することができます。そして、この訴訟において、賃料を減額する旨の判決が出され、それが確定すれば、賃料が減額されます。
なお、調停又は訴訟中に従前の賃料を支払うことを忘れないでください。従前の賃料の支払いを怠っていると、賃料不払いを理由として賃貸借契約を解除されてしまう可能性があります。貸主が従前の賃料を受け取らない場合の対策としては、供託という方法が考えられます(供託について)。
- 供託とは、債務者が債権者に対してお金を支払おうとしているにもかかわらず、債権者がお金の受領を拒絶している場合や債権者がお金を受領することができない場合に、法務局にある供託所にお金を預けて、債権者にお金を支払ったことにする制度です(民法494条)。
例えば、貸主が一方的に賃貸借契約の終了を主張して賃料の支払いを拒絶している場合や貸主が一方的に賃料の値上げを主張して従前の賃料の受領を拒絶しているような場合に、借主は、賃料を法務局にある供託所に供託することで賃料の未払いを免れることができます。
- 更新料の支払いが必要であるか否かは、賃貸借契約書をご確認ください。賃貸借契約書に更新料の支払いについて記載されている場合、原則として、更新料を支払わなければなりません。
ただし、賃貸借契約書に記載されている更新料の金額が高額すぎるような場合、更新料の取り決めが無効となることがあり、このような場合は更新料を支払う必要がありません。判例上、更新期間1年に対して賃料2か月分を支払う旨の更新料の契約条項を有効としたものがありますので、更新料の支払いが無効となるためには、これより高い金額である必要があると考えられます。
- 賃貸借契約書に、契約期間として、『平成○○年○月○日から平成○○年○月○日まで』などのように期間が定められている賃貸借契約を「契約期間の定めのある賃貸借契約」といいます。
契約期間の定めのある建物の賃貸借契約においては、契約期間満了の1年前から6か月前までの間に貸主が契約の更新を拒絶し、かつ、この更新拒絶に正当事由が認められない限り(正当事由について(リンクQ5))、自動的に契約が更新されます(借地借家法26条、28条)。この場合、契約期間に関する定めを除いて、これまでの契約と同一の内容で契約が更新されたことになります。そのため、借主は契約期間の満了後もそのまま住み続けることができます。
ただし、契約が自動更新された場合、法律上、更新後の契約については、「契約期間の定めのない賃貸借契約」になります。契約期間の定めのない賃貸借契約においては、貸主から解約の申し入れがあり、かつ、解約の申し入れの正当事由も認められる場合、解約の申し入れの日から6か月の経過をもって契約が終了することになります(借地借家法27条、28条)。
- 借主は建物を退去するにあたり、建物の原状回復義務を負います。ただし、ここでいう原状回復は、契約締結当時の状態に戻すという意味ではありません。借主の通常の使用により生じてしまった損傷や劣化(「通常損耗」といいます)については、原則として、借主は原状回復義務を負いません。
例えば、日光や風雨などにより畳や壁などが劣化してしまった場合、このような劣化は借主の通常の使用により生ずるものですので、原状回復費用を支払う必要はありません。
ただし、他方、子どもが壁に落書きをしてしまった場合や絵画を飾るために壁に穴をあけてしまった場合は、通常の使用を超えていると判断されてしまうため、原状回復費用を支払う必要があります。
例外的に、賃貸借契約書に借主が原状回復すべき通常損耗の内容が記載されている場合、この通常損耗についても原状回復義務が生じることがありますので、ご注意ください。
- 「敷金」とは、借主が、賃貸借契約締結時に、貸主に預けておくお金です。このお金は、借主が建物から退去する際に、賃料の未払いがある場合や修繕・清掃費用を支払う必要がある場合に、これらの支払いに充てられます。そして、残額がある場合には借主に返還されます。
- まず、建物の所有権がBさんに移っているか確認する必要があり、建物の所有権は、不動産の登記によって確認することができます(不動産登記について)。そして、建物の登記がBさんに移っている場合には、貸主の地位もBさんに引き継がれていることになります。この場合、今後、Bさんに賃料を支払っていく必要があります。
- まず、不動産の登記(不動産の登記について)を確認します。そして、建物の登記がBさんに移っている場合には、原則として、Bさんに敷金も引き継がれていることになります。そのため、敷金の返還も、Bさんに対して請求することになります。
ただし、例外的に、競売によって建物の登記に変更があったときは、敷金が、建物の新しい所有者に引き継がれない場合があります。この場合、従前の所有者に対して、敷金の返還を請求することになります。
- 不動産の登記とは、不動産の存在する場所や面積などの現況及び所有者などの権利関係を公的に証明する記録です。この証明書は、誰でも法務局で発行してもらうことができます。
- 建物の利用を目的とした土地賃貸借契約の場合、借地借家法という法律で、土地の借主に建物買取請求権という権利が認められています(借地借家法13条)。建物買取請求権とは、土地賃貸借契約の期間が満了したときに、借主が貸主に対して、建物を時価で買い取るように請求することができる権利です。したがって、貸主に対して、建物の買い取りを請求すれば、建物を取り壊す必要はありません。
なお、建物買取請求権は、契約期間の満了による契約終了の場合に限られますので、貸主と借主の合意で賃貸借契約が終了した場合や借主が賃料の支払いを怠ったために貸主から賃貸借契約を解除された場合には認められません。
- 借主が建物に付属させた物(エアコンやウォッシュレットなど)については、賃貸借契約終了時に、借主が持って行くことができますし(民法616条、598条)、貸主から持って行くように請求されていない場合は、そのまま置いていくこともできます。
ただし、持って行っていい物は、建物と分離可能なものに限られます。建物と分離できない物(床をフローリング加工した場合の床材など)については、持って行ってはいけません。この場合、貸主に対して、この買取り又は費用を請求することになります(借地借家法33条)。
- 連帯保証人は、借主と同様の義務、責任を負います。
例えば、貸主が、連帯保証人に対して、賃料や修繕・清掃費用等の支払いを請求してきた場合、借主に代わって、賃料や修繕・清掃費用等にこれらの遅延損害金を付して支払わなければなりません。また、貸主が請求してきた場合、借主の賃貸借契約終了時の建物の明渡し、原状回復義務についても、借主に代わって行わなければなりません。
連帯保証人は「借主に請求してくれ」などと言って、これらの義務を拒むことはできません。
支払督促について
最終更新日:2017年08月09日- 債務者に支払督促が送達されてから2週間が経過しても債務者から督促異議の申立てがない場合には、債権者は、仮執行宣言の申立てをすることができます。この申立てを受けた簡易裁判所の書記官は、その内容を審査し、仮執行宣言付支払督促を債務者に送達します。その際、債務者の言い分を聴くことはありません。
そして、仮執行宣言付支払督促が債務者へ送達されると、債権者は、仮執行宣言付支払督促に基づいて強制執行をすることができるようになります。債務者は、仮執行宣言付支払督促が送達された後2週間以内であれば、督促異議の申立てをすることができます。
なお、債権者が仮執行宣言の申立てができる時から30日以内に仮執行宣言の申立てを行わない場合、支払督促は効力を失いますので、ご注意ください。
- 支払督促又は仮執行宣言付き支払督促について不服のある債務者は異議を申立てることができます。これを督促異議といいます。
支払督促に仮執行宣言が付される前に督促異議の申立てがあった場合、支払督促は効力を失い、通常の民事裁判に移行します。また、債権者は、仮執行宣言の申立てができなくなります。
他方、仮執行宣言が付された後に督促異議の申立てがあった場合、通常の民事裁判に移行しますが、仮執行宣言付支払督促は効力を失いません。債権者は、民事裁判の途中であっても、仮執行宣言付支払督促に基づいて強制執行をすることができます。債務者が強制執行を阻止するためには、別途、強制執行の停止または取消しの申立てをする必要があります。
なお、仮執行宣言付支払督促の送達後2週間を経過すると、債務者は、督促異議の申立てをすることができなくなりますので、ご注意ください。
- まず、債務者が支払督促に対し2週間以内に異議を申し立てると、当然に通常の民事裁判に移行します。したがって、債務者が督促異議の申立てをすることが明白な事案については利用するメリットがありません。
また、支払督促は、原則として、債務者の住所地を管轄する簡易裁判所に申立てる必要があります。支払督促手続だけであれば書面審査ですので、遠隔地でも問題はありませんが、債務者の異議により民事訴訟手続に移行した場合には、同地域の地方裁判所又は簡易裁判所に出頭しなければならなくなりますので、注意が必要です。